会社でのお酒の席とかはあまり得意ではない。だから避けたかったんだけど……後輩である私じゃ断るに断りづらい。本当ならさっさと家に帰ってゲームをしていたはずなのに。
昔からゲームは好きだったけれど、何かと忙しいから最近は簡単に出来るパズルゲームをやり出した。するとあろうことかまんまとそのゲームにのめり込んでしまっている。
時間がある時はMMORPGをがっつりやるけれど、最近は出来てないんだよね。今日やりたかったなぁ。
はぁ、飲み会が終わるまでこっちで簡単に出来るパズルゲームでもしちゃおうかな。なんて思いつつもお手洗いに向かい、重い足取りで出た。
……ら、戻りたくなってしまった。
「ま~なっかちゃんっ!」
「……先輩もトイレですか。こっちは女子トイレですよ」
「真香ちゃん待ってたんだよ!」
今度は別の部署の先輩か……何かと私に話しかけては食事に誘ったりしてくる人で、絶賛困っている最中 なんだよね。顔が整っているから影ではファンもいて、だいぶ視線がぐっさぐっさ刺さってくる。
でも……全く私のタイプじゃない。一体どこをどう見てこれがイケメンと言っているんだろうか。一度聞いてみたい。
「矢部ちゃんに絡まれて困ってたね。大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
そして一番困るのは……先輩は距離が近い。もう至近距離寸前だ。後ろに下がるけど先輩は迫ってきてるから距離は変わらず。
けれど、肩に手が乗せられた。目の前の先輩じゃない。後ろから。
「あ、やっぱり真香だ」
「……は?」
聞いたことのある、声。
視界に入った、高身長の男性。
すぐに分かった。
「久しぶり」
その声に、心臓が、どんどん、大きく脈打ってくる。
音が、煩いくらいに大きくなってくる。
「何、忘れた? 朝陽だよ」
それぞれの両親が仲がよくて、幼稚園から高校までずっと一緒にいた、幼馴染。
「……お久しぶり、です」
高校卒業と同時に、別々の進路に進み会えなくなった人。
その声で名前を呼ばれた瞬間、あの学生時代が蘇った。
進路希望を聞かされ、この想いを隠し続けて、酷く苦しかった、あの数ヶ月間を。
ここは東京だ。大学時代、進路を決める際、東京も視野に入れていた。もしかしたら、なんていう淡い期待なんてものもあった。何て事を自分でやってるんだと馬鹿馬鹿しく思った。けれど、さすがに会わないかと自分に呆れていたのを覚えている。
けれど、結局は就職先を東京にしてしまった。
そしたら、これだ。
少し見た目は変わったけれど、長年聞いてきたこの声は、間違う事はない。
「何だよ、その他人行儀」
「いや、いきなりすぎて」
いや、本当にいきなりすぎる。シビアすぎる、これは。
心臓の音が、痛いくらいに大きい。私は、一体何を話したらいいのか、分からない。
「真香ちゃん、友達?」
その声で、そこに先輩がいる事にようやく気付き、がっしり朝陽の腕を掴んだ。
「幼馴染なんです~! へ~偶然だね! ほんっと久しぶり!」
「……だな。お前背縮んだか?」
「お前がデカくなったんだろうが」
「そうか? 身長測ってないから分からんけど」
積もる話もあるので! と朝陽の腕を引っ張ってその場を退避した。



