「今日は無礼講、そして社長持ちだ!! 遠慮せずドンドン飲んで食って盛り上がっていこう! 乾杯!!」


 課長のその言葉の後、集まる者達も声をそろえ、ビールを煽った。

 今日は、勤めている会社の集まりだ。皆、さっき乾杯の音頭を取った課長に捕まりこの飲み屋に連行された。かくいう私もその一人。奢ってやるから、と言われて来たんだけど……奢るのは課長ではなく社長だったというわけか。

 というか、課長がそれ言っていいのか?


「飲んでる? 真香ちゃん!」

「先輩、明日仕事ですよね。飲みすぎはダメですよ」

「あははっ、でもせっかく社長が持ってくれるんだから遠慮したら勿体ないでしょ!」


 いや、そこは遠慮すべきところでしょ。社長が奢ってくれるんだから。

 それにしても、社長が全部払ってくれるなんて太っ腹だな。


「ほらほら飲んで飲んで! 真香ちゃんいつも遠慮してるんだから今日は遠慮しないの!」

「えっ先輩!?」


 先輩に無理やり渡されたコップに入っているのは……これは日本酒だろうか。さっきまで先輩が飲んでたやつだよね。

 しょうがないな、と思いつつも一口。うわぁ、日本酒だ。私、ビールならいけるけど日本酒は……飲めるけど今日はあまり酔いたくない。よし、逃げよう。

 と、思っていたけれど逃がさんぞと言いたげに腕に絡みついてくる。これは、逃げられない。


「ね~ね~真香ちゃんってさ、彼氏とかいないの?」


 ほら、始まった。先輩はお酒が入ると絶対に恋バナを始める。まぁ、入っていなくてもその話題が出てくることはあるけれど。

 そのたびに、私は〝彼〟を思い出す。だから、恋バナは苦手であまり参加したくない。


「いません。前にも言ったじゃないですか」

「本当? それ、本当?」

「本当です」

「え~真香ちゃん可愛いのにもったいな~い! じゃあお姉さんがイイ人紹介してあげよっか! そうだな~、年上と年下どっちが好み? 身長高い人がいい? 紳士とほんわかと、あと俺様も知り合いにいるよ! どれがいい?」

「先輩、もう酔ったんですか」

「酔ってないよ~! ほら真香ちゃん、どれがいい? そうだなぁ、真香ちゃんしっかりしてるけどぉ、紳士のほうが相性いいかしら?」

「真香ちゃんはぁ~、隣にいて安心出来る包容力のある男性の方がいい気がする!」


 今度はもう一人の女性の先輩が話に入ってくる。これはマズいな。そう思いようやくお手洗いに逃げることが出来た。