「これ、度数ヤバいね」
「だろ?」
開けた日本酒は……だいぶ度数があるものだった。飲みやすくはあるけれど、気にしなかったらどんどん飲めちゃうやつだ。これは気を付けないと酒に飲まれるやつ。
「本当はさ、昨日は同僚達と宅飲みするはずだったんだよ。けど先輩が入ってきて先輩のお気に入りの店になっちゃってさぁ。ウチに残ってる日本酒を減らす魂胆だったのに、やってくれたよなぁ」
昨日の事を思い出し、朝陽がタクシーに乗せていた女性が頭の中に浮かんだ。同僚達と、という事はあの女性と二人きりじゃなかったんだ。
……何私馬鹿な事考えてるの。
「マジであれ何とかしないといけないんだよ。絶対また送ってくるの分かってるし」
マジで困ってるな。遠い目するなって。
「じゃあ、引き受ける?」
「……マジ? いいのか?」
「うん。先輩に日本酒好きな人いるし。あ、聞いてからね」
「マジか、救世主。めっちゃ助かる。やっぱり持つべきは幼馴染か」
そう言いつつ目をキラキラさせているところを見ると、ガチで困ってたな、こいつ。
とりあえず、明日も仕事だから出勤してから聞いてみよう。朝陽にはすぐ日本酒の写真撮って送ってもらって……
と、思っていたその時だった。
「真香、お前ピアス開けたんだ」
ローテーブルを挟んで座っていた、向こう側の朝陽の手が、こちらに伸びてきた。
その大きな手は、私の髪を避けて耳たぶに触れる。
一瞬、顔がこわばってしまった。
「そ、そりゃ、おしゃれしたいし……」
そう答えつつ、顔を動かして手から離れた。触れられた耳たぶが、熱い。
いきなりの事で、さっきまで普通だった心臓の脈が、一気に速くなってくる。
「まっ、それもそうか」
「……」
「けど……確かにおしゃれになったよな、真香」
えっ。
「髪が長くなったからか? 最後は高校生の時だったしな。……――綺麗になった」
耳を疑った。
綺麗になった。そんな言葉、朝陽の口から出るはずがない。しかも、私に向かって。
おかしい。それは、おかしい。
きっと、お酒が入ったからだ。そう、きっとそうだ。
「あははっ、なんてな。そりゃああん時は未成年のガキだったしな。当たり前か」
「……そ、そうだよ。私達もう大人になったんだ、し……」
あの日、気付いてしまった恋心。これが朝陽に気が付かれては私達の距離が遠くなってしまうと必死になって隠してきた。ようやく卒業した頃には、もう自分が何をしているのか分からなくなっていた。
日に日に大きくなっていく恋心、それに比例して強くなる不安と、危機感。
でも、それは子供の頃の話だ。私達はもう大人になった。その恋心を抱いたのは、昔の話。
そう、昔の話。今の私じゃない。
だから、これは偽りだ。
「……アンタ、スマホ充電しなくていいの? ゲームやってたんでしょ」
「え、いいのか? よっしゃ。コンセントどこ?」
「こっち使って」
ただ、私達は小さい頃から仲の良かった幼馴染。
それだけだ。



