だいぶ深いため息の後、とっても慣れた手つきで包丁さばきを披露してくれた。それからフライパンに火をつける。料理男子、とはこういう人の事を言うのだろうか。
「……慣れてるね」
「そりゃ、一人暮らしですから」
「実家じゃないんだね」
「俺の就職先がそこより遠かったから一人暮らしになったんだよ」
「へぇ……」
何故だろう。
私の知らない朝陽が、隣にいるように感じた。朝陽のこんな姿を見るのは、初めてだから。
私の知る朝陽は高校生までの姿。今は社会人になって一人暮らしをしてるんだから、これくらい普通か。
何となく、寂しく思ってしまった。
「……今まで、みかんとかやさいとかどうしてたの?」
「あぁ、隣のご近所さんにあげてたんだよ。でも、最近引っ越しちゃってさ。だから最近は冷凍庫」
「へぇ……」
ご近所さん……
どんな人? と聞きたくなってしまったけれど、「冷凍みかん美味いんだよ」と話す朝陽に返事をするしか出来なかった。
「皿」
「あ、はい」
いとも簡単に作ってしまった、今日のお夕飯。とっても、美味しそうだ。私より上手じゃありませんか?
寂しく思ってしまったけれど、嬉しくもある。私の為に、腕を振るってくれたんだから。いや、呆れてるのか。
食べるのが、とっても楽しみだ。
……ん? ちょっと待って?
あっちの部屋ってちゃんと片付いてたっけ。朝の洗濯物、パジャマとか、洗濯かごに入れたままだったよね。……昨日の下着、とか。
「あの、朝陽さん。非常に申し訳ないのですが……一瞬目をつぶっていただけないでしょうか」
「……ほら、さっさとやってこい」
キッチンの近くにある、洗濯機。あっちに置いてある洗濯かごを持ってきて、洗濯機の中に一気に入れてふたをしたのだった。あっぶねぇ……



