〇前回の続き
斗愛「無条件で名前を呼ばれるあいつがずるい」←絞り出すように
そうつぶやくと恋桃を抱きしめる力が強くなった。
恋桃「あ、あいつ!?」
斗愛「俺のことはめったに名前で呼ばないのに、何であいつは・・・」
恋桃(先輩の言うあいつとは奥田君のことですよね?確かに名字(なまえ)で呼んでいました。どうやら先輩は人を三人称で呼ぶときは少々雑になるようです。いえ、今は新発見をしたことを喜んでいる場合ではありません。先輩が何を嫌がり、何を恋桃の求めているのか知らなければ・・・!)
恋桃「先輩は、恋桃に名前で呼ばれたいんですか?」
斗愛「・・・・・そうだよ」←うなだれている
恋桃「えっと、斗愛くん・・・?」
斗愛「なあに?」
おそるおそるそう呼ぶと斗愛は顔を起こしてきゅるきゅるしたお目目で恋桃を見つめる。恋桃、鼓動が早くなる。
恋桃(斗愛くんがそう呼んでっていうからそう呼んだのに「なあに?」はずるいです。間の「あ」は何なんですか!舌足らずな感じがしてめためた可愛いです!!)
恋桃「好きです。恋桃は斗愛くんが大好きです」←ふわっと笑いながら言う
斗愛「・・・ありがとう」
斗愛くん呼びに改めて告白すると、斗愛は恋桃の触覚を耳にかけそこに近づいた。
斗愛「俺も恋桃って呼んでいい?」
恋桃「いいですよ。むしろ、お願いします・・・!」
斗愛の心地いい声が耳をなで、何故だかゾクッとした。
でもそれは嫌悪感からくるものではなく、禁断の果実に触れてしまった罪悪感に似ている。そのせいかいつもより言葉がはっきりと出てこない。
斗愛「恋桃」
恋桃「なんでしょうか?斗愛くん」←斗愛の恋桃呼びを噛み締めながら
先ほど斗愛が恋桃にした質問を返すと、斗愛は名残惜しそうにゆっくり恋桃を解放した。
恋桃も最初は困惑したが、今は斗愛くんの体温を恋しく思う。
斗愛「今日はごめんね、情けなくて」
恋桃「そんな!斗愛くんは情けなくないです!誰よりもかっこいいです!!」
急いで否定すると斗愛はきゅっと唇を結んだ。
斗愛「ありがとう。俺は多分、恋桃が知らない奴と話しているのを見て・・・嫉妬したんだと思う」
恋桃(!?!?!?!)
恋桃「えぇぇえええ嫉妬!?嫉妬してくれたんですか!?もしかして恋桃のこと好きになってきてくれてます!??」
斗愛「まぁ、うん・・・。好きになってきてるよ。恋桃には俺だけなんじゃないの?って妬くぐらいには」←申し訳なさそうに
恋桃「と、斗愛くん可愛い・・・」
斗愛がまるで子犬がシュンとしているように見える。
恋桃「恋桃には斗愛くんだけですからね!!」
斗愛「うん。そのままでいてね」
恋桃「大丈夫ですよ。恋桃は斗愛くんがずーっと好きなので!」
手を大きく広げ宣言すると斗愛はふわりと笑いました。
斗愛「やっぱり恋桃は可愛いね」
恋桃(こ、こここのタイミングで、か、可愛い!!?!?斗愛くんは今日恋桃をキュン死させる気ですか!?とても幸せな死因ですができれば結婚式後がいいです!!)
キャーってなった後にハッとする。
恋桃(あ、それと斗愛くんに言わなければならないことがあります!)
恋桃「これからは斗愛くんが嫉妬しないように気を付けますね!」
恋桃(嫉妬はされる側は嬉しいですがする方は苦しいですもんね!!!)
〇次の日の朝・通学路
恋桃「とーうーあーくーん!!!」←斗愛を発見し後ろから声をかける
斗愛「! 恋桃」
恋桃(きゃ〜「恋桃」って呼ばれました!やっぱり昨日のことは夢じゃなかったんですね!!)
恋桃「おはようございます!今日もかっこいいですね!好きです!!」
斗愛「おはよう。恋桃は今日も元気だね」
恋桃「はい!斗愛くんが可愛いと言ってくれればもっと元気になりますよ」
斗愛「じゃあ疲れたときに言ってあげるね」
恋桃(なるほど、つまり今日の放課後に言ってもらえる可能性があるんですね!!)
そう考えるだけで一気に活力が湧いた。
恋桃「ところで斗愛くん、昨日の夜恋桃は考えました。どうすれば斗愛くんが嫉妬しないかについて!」
斗愛「え、そんなこと考えてくれたの?・・・聞かせてくれる?」
恋桃「もちろんです!まず必要最低限人の名前を呼ばない。次に斗愛くん以外に懐かない。それからそれから、斗愛くんにたくさん好きだと伝える!この三つです!どうですか!?」←自信満々にきらきらとした目を向ける
斗愛く、戸惑う。※恋桃に対するマイナスな感情は込められていない。
斗愛「・・・恋桃は、それでいいの?」←複雑そうに
恋桃「? いいから言っているんですよ?」
斗愛「じゃあいいんじゃない?」←期待するように
恋桃(!! 昨夜一生懸命考えてよかったです!)
斗愛「俺のためにありがとね」
恋桃「いえいえ!斗愛くんには嫌な思いをしてほしくないので!」
ニコーっと笑うと斗愛くんの口角が控えめに上がった。
複雑そうな表情もすっかり消えていて恋桃一安心。
恋桃(やっぱり斗愛くんには幸せでいてほしいです!)
〇放課後・教室
今日一日斗愛くんの宣言したことを実践してみました。
とはいえ、特に困りませんでした。元々恋桃は斗愛くん以外に懐いていませんし好きだと伝えるのはいつも通りのことですし、他のクラスメイトとは授業での話し合いでしか関わりませんし。
ですが強行突破してくる例外がいました。
←恋桃、ナレーション
奥田「佐々木さん」
恋桃「はい?」
荷物をまとめていると奥田に話しかける。
昨日斗愛が嫉妬した相手なので極力関わりたくないが話しかけられたら無視するわけにもいかないので応じる。
恋桃(今日こそ下駄箱に直行して斗愛くんを待ちたかったのに!!)
奥田「えっと、昨日の先輩の目、やばくなかった?なんか目にハイライトが入っていなかったような・・・」←あくまで恋桃を心配するように
恋桃「その言葉そのままお返しします」
斗愛「あ、ごめん。嫌な気持ちにさせたいんじゃなくて何か酷いことされなかったか心配で」
恋桃(斗愛くんの目がやばいなんて失礼です。ハイライトが入っていようがなかろうが硝子玉のようにきれいな瞳なのに・・・!!)←信じられないとでも言いたげな顔で
恋桃(そういう彼こそ目がやばいんじゃないでしょうか。眼科を受診するべきです)←ちょっとムッとしながら
恋桃「斗愛くんはそんなことしませんよ」
奥田「そうかもしれないけど!心配だから今日は俺と帰ら」
斗愛「恋桃」←奥田の言葉を遮る
恋桃「斗愛くん!」
勢いよく声の方を振り向くと教室のドアのところに斗愛がいた。
そのまま斗愛は恋桃のところに真っすぐやってきて、恋桃の手を引いた。昨日のような強引さはなく、まるで壊れ物に触れるように。
斗愛「恋桃、帰ろう」
恋桃「はい!」
斗愛くんは恋桃の満面の笑みを見た後、目だけ奥田君の方を向けた。恋桃に向ける優しいものとは違い、鋭いもの。
恋桃(奥田君の言っていた「やばい目」とはこのことでしょうか。確かに怖いですが、それ以上に芸術作品のように崇高だというのに・・・)
斗愛「じゃあね、奥田君」
奥田「・・・どーも」
恋桃と話すときよりも数段低い声を出した斗愛は恋桃の手を引きながら教室を後にしました。
恋桃(心なしか奥田君の声も低かったような・・・?うろ覚えですが。まぁどっちでもいいです。何故なら斗愛くんに手を引かれてそれどころじゃないので!!!まさか学校で手を繋がれる日が来るとは・・・!!!!過去の恋桃にも自慢したいです!!!!!)
恋桃「斗愛くん。まさか恋桃のお迎えに来てくれるとは思いませんでした!ありがとうございます!嬉しかったです!」
斗愛「そう?なら明日も行こうか?」
恋桃「いいんですか!?迷惑じゃありませんか?ほら、今までは恋桃の方が先に下駄箱で待ってたじゃないですか!」
斗愛「あぁそのこと気にしてるの?あれはただゆっくり行けば恋桃が待ってるかなーどうかなーってちょっとした運試しのようなものだったし」
恋桃「!?」
恋桃(そこも試されていたんですか!?!?それはもう試すというより期待なのでは?言ったらまた否定されると思いますが!!)
斗愛「あとこれは牽制も兼ねてるから気にしなくていいよ」
恋桃「け、牽制?」
斗愛「そう。恋桃に虫が集らないように?」
恋桃「えっ、恋桃臭いですか!?」←裾の匂い嗅ぐ
斗愛「ううん。お花みたいにいい匂いだから寄ってくるんだよ。身の程知らずだよね」
恋桃「? そうですね・・・?」
恋桃(斗愛くんの言い方に棘を感じましたが、それよりもお花みたいないい匂いって褒められました・・・!!ちょっと高い今の柔軟剤を選んでよかったです!!)
〇ダイジェスト・恋桃説明
あれからというもの斗愛くんは毎日恋桃の迎えに来るようになりました。幸せです。
そうなってくると斗愛くんのいう「答え」がいいものではないかとついつい期待してしまいます。
まぁそれが悪い答えだろうと斗愛くんが本気で嫌がらない限り向き合うつもりですが!!
ちなみに最近、以前と比べて奥田君は大人しめです。相変わらず話しかけてはきますが回数が減っています。
前に斗愛くんのことを悪く言ったことを反省しているのでしょうか。
それともあの後眼科に行って何か異常が発見されたとか。
恋桃としてはあまり関わらなくなるのはいいことなので放っておきますが。
奥田君に声をかけるときの斗愛くんの声も態度も冷たかったので、きっと斗愛くんは奥田君のことが嫌いなのでしょう。
心優しい斗愛くんに嫌われるなんて一体何をしでかしたんでしょうね。
そんな風に斗愛くん以外のことを考えたので罰が当たったのでしょう。
〇放課後・第2準備室
日直ということで放課後に奥田くんと第2準備室まで荷物を運ぶことになりました。
↑ナレーションの続き
恋桃(き、気まずいです・・・!斗愛くんも今日は担任の先生との二者面談で遅くなると言いますし、ついてないです!!)
奥田「佐々木さん、俺重い方持つから軽い方をお願い」
恋桃「はい。ありがとうございます」
恋桃(これが斗愛くんだったら恋桃に確認を取ることなくしれっと重い方を持つんでしょうね・・・とかついつい考えちゃいます・・・・・・)←落ち込み気味
荷物を置いてそのまま出ようと振り返ると、奥田はドアを閉められる。
恋桃「? どうかされました?」
奥田「ちょっと佐々木さんに聞きたいことあるんだけどいい?」
恋桃「手短にお願いします」
奥田は感情を抑えるようにこぶしを握ったまま、恋桃と向き合う。
奥田「佐々木さんはあの先輩と付き合ってんの?」←意を決したように
恋桃「まだです」
奥田「じゃあ、なんで手なんか繋いでんの?」
恋桃「斗愛くんが繋いでくれるから」
奥田、納得いかない顔をする。
奥田「それって弄ばれてるだけじゃないの・・・?」
恋桃「違います。斗愛くんは今、答えを考えてくれているんです。だから待っているんです」
奥田「そういうのをキープしてるって言うんじゃない?だって何か月も進展がないんでしょ?脈なしなんじゃない?」
恋桃(進展がないなんて、何で簡単に言い切るのでしょう。奥田君は一体恋桃たちの何を知っているんですか。もし斗愛くんが人を弄ぶような人なら、恋桃が他の人の名前を呼んだだけで泣きそうになるわけがありません)←ムッとしながら
奥田「それに前友達と話してたよね。佐々木さんは先輩と自分の名前の"恋"と先輩の"愛"を合わせれば"恋愛"になるから運命だって言ったんだって?」
恋桃「そうです」
奥田「でも俺の名前にも"愛"は入っているんだよ。だから佐々木さんと先輩は運命でも何でもないんだよ」
恋桃「・・・・・・」
恋桃(まさか恋桃がたったそれだけの理由で斗愛くんのことが好きだと思っているのでしょうか。あれはただ、斗愛くんと恋桃は運命なのだとこじつけるために言ったに過ぎないのに)←呆れて黙る
奥田「そんな先輩よりも俺の方がよくない?俺、ちゃんと佐々木さんのことが好きだよ」
恋桃(あぁ、この人は何も分かっていないんですね)←表情がなくなる
恋桃「何もよくありません。恋桃は斗愛くんのことが好きなので」
恋桃「では、ま」
奥田「待って」
↑また明日、と言って奥田のいない方のドアから出たが、言葉を遮られスクールバックの持ち手を掴まれてる
恋桃「恋桃はきちんとお断りしました。他に言うことがあるんですか?」
そういうと奥田は言葉を詰まらせた。
離してくださいと目で抗議しても効果はなし。
ここで渡り廊下から足音が聞こえた。恋桃は足音だけでも誰が来たのか分かった。
斗愛「恋桃」←見捨てられたような震えた声
斗愛「何・・・してるの?」←その瞳はほの暗い何かに完全に染められている
恋桃は斗愛の様子がいつもと違うことに気づいた瞬間居ても立ってもいられなくなり、斗愛をその場から連れ去った。
斗愛「無条件で名前を呼ばれるあいつがずるい」←絞り出すように
そうつぶやくと恋桃を抱きしめる力が強くなった。
恋桃「あ、あいつ!?」
斗愛「俺のことはめったに名前で呼ばないのに、何であいつは・・・」
恋桃(先輩の言うあいつとは奥田君のことですよね?確かに名字(なまえ)で呼んでいました。どうやら先輩は人を三人称で呼ぶときは少々雑になるようです。いえ、今は新発見をしたことを喜んでいる場合ではありません。先輩が何を嫌がり、何を恋桃の求めているのか知らなければ・・・!)
恋桃「先輩は、恋桃に名前で呼ばれたいんですか?」
斗愛「・・・・・そうだよ」←うなだれている
恋桃「えっと、斗愛くん・・・?」
斗愛「なあに?」
おそるおそるそう呼ぶと斗愛は顔を起こしてきゅるきゅるしたお目目で恋桃を見つめる。恋桃、鼓動が早くなる。
恋桃(斗愛くんがそう呼んでっていうからそう呼んだのに「なあに?」はずるいです。間の「あ」は何なんですか!舌足らずな感じがしてめためた可愛いです!!)
恋桃「好きです。恋桃は斗愛くんが大好きです」←ふわっと笑いながら言う
斗愛「・・・ありがとう」
斗愛くん呼びに改めて告白すると、斗愛は恋桃の触覚を耳にかけそこに近づいた。
斗愛「俺も恋桃って呼んでいい?」
恋桃「いいですよ。むしろ、お願いします・・・!」
斗愛の心地いい声が耳をなで、何故だかゾクッとした。
でもそれは嫌悪感からくるものではなく、禁断の果実に触れてしまった罪悪感に似ている。そのせいかいつもより言葉がはっきりと出てこない。
斗愛「恋桃」
恋桃「なんでしょうか?斗愛くん」←斗愛の恋桃呼びを噛み締めながら
先ほど斗愛が恋桃にした質問を返すと、斗愛は名残惜しそうにゆっくり恋桃を解放した。
恋桃も最初は困惑したが、今は斗愛くんの体温を恋しく思う。
斗愛「今日はごめんね、情けなくて」
恋桃「そんな!斗愛くんは情けなくないです!誰よりもかっこいいです!!」
急いで否定すると斗愛はきゅっと唇を結んだ。
斗愛「ありがとう。俺は多分、恋桃が知らない奴と話しているのを見て・・・嫉妬したんだと思う」
恋桃(!?!?!?!)
恋桃「えぇぇえええ嫉妬!?嫉妬してくれたんですか!?もしかして恋桃のこと好きになってきてくれてます!??」
斗愛「まぁ、うん・・・。好きになってきてるよ。恋桃には俺だけなんじゃないの?って妬くぐらいには」←申し訳なさそうに
恋桃「と、斗愛くん可愛い・・・」
斗愛がまるで子犬がシュンとしているように見える。
恋桃「恋桃には斗愛くんだけですからね!!」
斗愛「うん。そのままでいてね」
恋桃「大丈夫ですよ。恋桃は斗愛くんがずーっと好きなので!」
手を大きく広げ宣言すると斗愛はふわりと笑いました。
斗愛「やっぱり恋桃は可愛いね」
恋桃(こ、こここのタイミングで、か、可愛い!!?!?斗愛くんは今日恋桃をキュン死させる気ですか!?とても幸せな死因ですができれば結婚式後がいいです!!)
キャーってなった後にハッとする。
恋桃(あ、それと斗愛くんに言わなければならないことがあります!)
恋桃「これからは斗愛くんが嫉妬しないように気を付けますね!」
恋桃(嫉妬はされる側は嬉しいですがする方は苦しいですもんね!!!)
〇次の日の朝・通学路
恋桃「とーうーあーくーん!!!」←斗愛を発見し後ろから声をかける
斗愛「! 恋桃」
恋桃(きゃ〜「恋桃」って呼ばれました!やっぱり昨日のことは夢じゃなかったんですね!!)
恋桃「おはようございます!今日もかっこいいですね!好きです!!」
斗愛「おはよう。恋桃は今日も元気だね」
恋桃「はい!斗愛くんが可愛いと言ってくれればもっと元気になりますよ」
斗愛「じゃあ疲れたときに言ってあげるね」
恋桃(なるほど、つまり今日の放課後に言ってもらえる可能性があるんですね!!)
そう考えるだけで一気に活力が湧いた。
恋桃「ところで斗愛くん、昨日の夜恋桃は考えました。どうすれば斗愛くんが嫉妬しないかについて!」
斗愛「え、そんなこと考えてくれたの?・・・聞かせてくれる?」
恋桃「もちろんです!まず必要最低限人の名前を呼ばない。次に斗愛くん以外に懐かない。それからそれから、斗愛くんにたくさん好きだと伝える!この三つです!どうですか!?」←自信満々にきらきらとした目を向ける
斗愛く、戸惑う。※恋桃に対するマイナスな感情は込められていない。
斗愛「・・・恋桃は、それでいいの?」←複雑そうに
恋桃「? いいから言っているんですよ?」
斗愛「じゃあいいんじゃない?」←期待するように
恋桃(!! 昨夜一生懸命考えてよかったです!)
斗愛「俺のためにありがとね」
恋桃「いえいえ!斗愛くんには嫌な思いをしてほしくないので!」
ニコーっと笑うと斗愛くんの口角が控えめに上がった。
複雑そうな表情もすっかり消えていて恋桃一安心。
恋桃(やっぱり斗愛くんには幸せでいてほしいです!)
〇放課後・教室
今日一日斗愛くんの宣言したことを実践してみました。
とはいえ、特に困りませんでした。元々恋桃は斗愛くん以外に懐いていませんし好きだと伝えるのはいつも通りのことですし、他のクラスメイトとは授業での話し合いでしか関わりませんし。
ですが強行突破してくる例外がいました。
←恋桃、ナレーション
奥田「佐々木さん」
恋桃「はい?」
荷物をまとめていると奥田に話しかける。
昨日斗愛が嫉妬した相手なので極力関わりたくないが話しかけられたら無視するわけにもいかないので応じる。
恋桃(今日こそ下駄箱に直行して斗愛くんを待ちたかったのに!!)
奥田「えっと、昨日の先輩の目、やばくなかった?なんか目にハイライトが入っていなかったような・・・」←あくまで恋桃を心配するように
恋桃「その言葉そのままお返しします」
斗愛「あ、ごめん。嫌な気持ちにさせたいんじゃなくて何か酷いことされなかったか心配で」
恋桃(斗愛くんの目がやばいなんて失礼です。ハイライトが入っていようがなかろうが硝子玉のようにきれいな瞳なのに・・・!!)←信じられないとでも言いたげな顔で
恋桃(そういう彼こそ目がやばいんじゃないでしょうか。眼科を受診するべきです)←ちょっとムッとしながら
恋桃「斗愛くんはそんなことしませんよ」
奥田「そうかもしれないけど!心配だから今日は俺と帰ら」
斗愛「恋桃」←奥田の言葉を遮る
恋桃「斗愛くん!」
勢いよく声の方を振り向くと教室のドアのところに斗愛がいた。
そのまま斗愛は恋桃のところに真っすぐやってきて、恋桃の手を引いた。昨日のような強引さはなく、まるで壊れ物に触れるように。
斗愛「恋桃、帰ろう」
恋桃「はい!」
斗愛くんは恋桃の満面の笑みを見た後、目だけ奥田君の方を向けた。恋桃に向ける優しいものとは違い、鋭いもの。
恋桃(奥田君の言っていた「やばい目」とはこのことでしょうか。確かに怖いですが、それ以上に芸術作品のように崇高だというのに・・・)
斗愛「じゃあね、奥田君」
奥田「・・・どーも」
恋桃と話すときよりも数段低い声を出した斗愛は恋桃の手を引きながら教室を後にしました。
恋桃(心なしか奥田君の声も低かったような・・・?うろ覚えですが。まぁどっちでもいいです。何故なら斗愛くんに手を引かれてそれどころじゃないので!!!まさか学校で手を繋がれる日が来るとは・・・!!!!過去の恋桃にも自慢したいです!!!!!)
恋桃「斗愛くん。まさか恋桃のお迎えに来てくれるとは思いませんでした!ありがとうございます!嬉しかったです!」
斗愛「そう?なら明日も行こうか?」
恋桃「いいんですか!?迷惑じゃありませんか?ほら、今までは恋桃の方が先に下駄箱で待ってたじゃないですか!」
斗愛「あぁそのこと気にしてるの?あれはただゆっくり行けば恋桃が待ってるかなーどうかなーってちょっとした運試しのようなものだったし」
恋桃「!?」
恋桃(そこも試されていたんですか!?!?それはもう試すというより期待なのでは?言ったらまた否定されると思いますが!!)
斗愛「あとこれは牽制も兼ねてるから気にしなくていいよ」
恋桃「け、牽制?」
斗愛「そう。恋桃に虫が集らないように?」
恋桃「えっ、恋桃臭いですか!?」←裾の匂い嗅ぐ
斗愛「ううん。お花みたいにいい匂いだから寄ってくるんだよ。身の程知らずだよね」
恋桃「? そうですね・・・?」
恋桃(斗愛くんの言い方に棘を感じましたが、それよりもお花みたいないい匂いって褒められました・・・!!ちょっと高い今の柔軟剤を選んでよかったです!!)
〇ダイジェスト・恋桃説明
あれからというもの斗愛くんは毎日恋桃の迎えに来るようになりました。幸せです。
そうなってくると斗愛くんのいう「答え」がいいものではないかとついつい期待してしまいます。
まぁそれが悪い答えだろうと斗愛くんが本気で嫌がらない限り向き合うつもりですが!!
ちなみに最近、以前と比べて奥田君は大人しめです。相変わらず話しかけてはきますが回数が減っています。
前に斗愛くんのことを悪く言ったことを反省しているのでしょうか。
それともあの後眼科に行って何か異常が発見されたとか。
恋桃としてはあまり関わらなくなるのはいいことなので放っておきますが。
奥田君に声をかけるときの斗愛くんの声も態度も冷たかったので、きっと斗愛くんは奥田君のことが嫌いなのでしょう。
心優しい斗愛くんに嫌われるなんて一体何をしでかしたんでしょうね。
そんな風に斗愛くん以外のことを考えたので罰が当たったのでしょう。
〇放課後・第2準備室
日直ということで放課後に奥田くんと第2準備室まで荷物を運ぶことになりました。
↑ナレーションの続き
恋桃(き、気まずいです・・・!斗愛くんも今日は担任の先生との二者面談で遅くなると言いますし、ついてないです!!)
奥田「佐々木さん、俺重い方持つから軽い方をお願い」
恋桃「はい。ありがとうございます」
恋桃(これが斗愛くんだったら恋桃に確認を取ることなくしれっと重い方を持つんでしょうね・・・とかついつい考えちゃいます・・・・・・)←落ち込み気味
荷物を置いてそのまま出ようと振り返ると、奥田はドアを閉められる。
恋桃「? どうかされました?」
奥田「ちょっと佐々木さんに聞きたいことあるんだけどいい?」
恋桃「手短にお願いします」
奥田は感情を抑えるようにこぶしを握ったまま、恋桃と向き合う。
奥田「佐々木さんはあの先輩と付き合ってんの?」←意を決したように
恋桃「まだです」
奥田「じゃあ、なんで手なんか繋いでんの?」
恋桃「斗愛くんが繋いでくれるから」
奥田、納得いかない顔をする。
奥田「それって弄ばれてるだけじゃないの・・・?」
恋桃「違います。斗愛くんは今、答えを考えてくれているんです。だから待っているんです」
奥田「そういうのをキープしてるって言うんじゃない?だって何か月も進展がないんでしょ?脈なしなんじゃない?」
恋桃(進展がないなんて、何で簡単に言い切るのでしょう。奥田君は一体恋桃たちの何を知っているんですか。もし斗愛くんが人を弄ぶような人なら、恋桃が他の人の名前を呼んだだけで泣きそうになるわけがありません)←ムッとしながら
奥田「それに前友達と話してたよね。佐々木さんは先輩と自分の名前の"恋"と先輩の"愛"を合わせれば"恋愛"になるから運命だって言ったんだって?」
恋桃「そうです」
奥田「でも俺の名前にも"愛"は入っているんだよ。だから佐々木さんと先輩は運命でも何でもないんだよ」
恋桃「・・・・・・」
恋桃(まさか恋桃がたったそれだけの理由で斗愛くんのことが好きだと思っているのでしょうか。あれはただ、斗愛くんと恋桃は運命なのだとこじつけるために言ったに過ぎないのに)←呆れて黙る
奥田「そんな先輩よりも俺の方がよくない?俺、ちゃんと佐々木さんのことが好きだよ」
恋桃(あぁ、この人は何も分かっていないんですね)←表情がなくなる
恋桃「何もよくありません。恋桃は斗愛くんのことが好きなので」
恋桃「では、ま」
奥田「待って」
↑また明日、と言って奥田のいない方のドアから出たが、言葉を遮られスクールバックの持ち手を掴まれてる
恋桃「恋桃はきちんとお断りしました。他に言うことがあるんですか?」
そういうと奥田は言葉を詰まらせた。
離してくださいと目で抗議しても効果はなし。
ここで渡り廊下から足音が聞こえた。恋桃は足音だけでも誰が来たのか分かった。
斗愛「恋桃」←見捨てられたような震えた声
斗愛「何・・・してるの?」←その瞳はほの暗い何かに完全に染められている
恋桃は斗愛の様子がいつもと違うことに気づいた瞬間居ても立ってもいられなくなり、斗愛をその場から連れ去った。



