「イケメンにかっこよく助けられてあたしはもうまんぞく! 仁愛ちゃんと聖先輩のジャマはしないよっ」
といって、翌日の葉純ちゃんはひとりで下校していった。
あやかしについても、なぜだかすんなり受け入れているらしく、公園にいるアヤちゃんの髪をキレイにしてあげるんだと言っていた。金髪の人のヘアアレンジなんて、なかなかできないもんね。
葉純ちゃんは『中学生のためのお仕事図鑑』を読んで、美容師とかヘアメイクアーティストとかのお仕事に興味を持ったみたい。本がきっかけで将来のことを考えるきっかけになってくれて、嬉しい。
『アンデルセン童話集』も、きれいに拭いて図書室に返却した。まただれかが、楽しんでくれるといいな。
昨日、聖くんをよしよしして、あやかしアヤちゃんとの戦って……夢だったみたいに遠く感じる。
今日は聖くんに呼び出されたので、アヤちゃんは葉純ちゃんに任せた。
いつもの部屋でソファに座る聖くんを見て、思い出してまた恥ずかしくなる。
私、聖くんをよしよししたんだよね……。冷静になって考えると、やばい。
男の子をよしよしするとか!
ねえ、聖くんは、どう思ってる? 私のこと……。そもそも、私は聖くんのこと、どう思ってる……?
「ごめん、仁愛」
とつぜん謝られて、私はびっくりする。
「え、なにが?」
「あやかし探しに巻き込んだせいで、仁愛も、葉純とやらも、かなりキケンな目に合わせた」
聖くんはソファに座ったまま頭をさげた。そして、そのまま、口をひらいた。
「もう、俺に関わらないほうが、いい」
思いがけない言葉に、私の頭がまっしろになる。
「俺といると、みんなが不幸になる。学校でも、あやかしのことでも。俺が関わらなければ仁愛は平穏に暮らせる」
聖くんは顔をあげると、私と目をあわせずにコーラを飲んだ。
「ずるいよ、そんな……。今までさんざん巻き込んだくせに」
思わず、恨み言が口をついて出る。
「ごめん」
聖くんは、首を振る。
その姿がとても寂しそうで、はじめて会ったときのように、ガードがかたいように見えた。最近は、私に心を許してくれていたから、その姿が遠く感じてしまう。
遠く感じるけど……放っておけるわけもなくて。
「ほんとうは、私にまたよしよしされたいくせに」
よしよし、という言葉に、聖くんは目を見ひらき、耳まで赤くした。
私だってこんなことを言うのは、はずかしい。でも言わなきゃ伝わらない。
聖くんは、私から顔をそむけてピンク色の髪の毛をくしゃくしゃって混ぜる。
「あ、あれは疲労がたまったせいで……」
「私はもう、やりたくないことは断るって決めたんだ。離れてって頼まれても、断わる」
アヤちゃんには「思いのほか自己肯定感高い」って言われたけど……それでいい。
「聖くんのことを信用しているから、断わることができるの。私が断ったからといって、嫌いにならないでしょ?」
聖くんは、また泣きそうな顔になる。
「俺は、だれも傷つけたくなくて……」
「学校ではしゃべらないようにすればいいし、あやかしからは、聖くんが守ってくれたらいい」
ほんとうは、学校でも堂々とおしゃべりしたいよ。でも、聖くんを傷つけてまで、押し通すことじゃないよね。
私の提案に、聖くんは戸惑いを浮かべる。
「どうして、そこまで俺に……」
「え、どうしてって……それは……」
なんていう? そもそも、この気持ちって、なんだろう?
聖くんのそばにいたい。聖くんをよしよししてあげたい。聖くんに笑顔になってほしい。
なにより、離れたくないの。
これって、好き、ってことなのかな?
わからないし、はずかしいし、私は口ごもってしまう。
もじもじと、制服のスカートの上で手をいじくる。
その様子を見て、聖くんは立ち上がって私のとなりに座る。
「なに? ハッキリ言ってよ」
すごく、近い距離で私の顔をのぞきこんでくる。さっきまでの気弱な雰囲気じゃなくて、いつもの、ちょっとイジワルな顔つきに戻っていて……。ドキドキしてしまう。
これ、告白させたがってる、よね? でも私が告白して「ふーん、俺は好きじゃないけどね」とか言わない? 急に、ネガティブな考えが頭をよぎる。
やっぱり、自己肯定感なんて高くないよ~!
「答えてよ、仁愛」
聖くんはじりじりと近づいてくる。
そんな風に言われたら、断れないよ……。
言うしかない! 言いたい! この気持ち、伝えたい!
勇気を出して、口を開いた。
「たぶん、聖くんのことが、好き、だからではないかと……」
「なにその言い方」
ぷふっと、聖くんが吹き出す。
「だって、こういうの、はじめてだからよくわからなくて」
もう、はずかしい! 私は熱い顔を手で覆った。
くすくすと、笑い声が聞こえてくる。
「俺も、こういう気持ちがはじめてだからよくわからないけど」
聖くんが、私の両手をやさしくにぎって、顔からはがす。そして、そのまま包み込んだ。
間近に、顔が迫っている。吐息がかかりそうなくらい。
「俺もきっと、仁愛が好きだ。はじめて会った時から、きっと」
「聖くん……!」
はじめて会った時、って。河童くんに襲われた時からってこと?
その段階から、私のことが気になってくれていたなんて……。
「だから、楓くんに家に呼ぶように言ったの?」
聖くんは、うんとうなずく。
「どうしてか、また会いたくて。……ごめん、断れない性格っていうのは知らなくて」
「……今となっては、断れない性格でよかった、かも」
「少しずつ、自分のことを好きになれたな、俺たち」
私たちは、見つめあって笑いあう。
でも、聖くんはすぐに表情を厳しいものにした。
「傷つけないよう、キケンな目にあわないよう、がんばるけど……ほんとうに、いいのか?」
しつこいくらいの確認。でも、私を思ってのことだよね。5時になったら帰れ、っていうのもそう。キケンなことに巻き込むくせに、私のことを大切にしてくれている。
「いいに決まってる!」
私は、聖くんの手を握り返した。
「どんなことがあっても、私は聖くんのとなりにいたい!」
聖くんは、泣き笑いのような顔で、うなずいた。ピンク色の髪が、サラサラと音をたてるように流れる。
これから先、キケンなことがあるかもしれない。でも、きっと、聖くんが守ってくれる。
聖くんのとなりにいられる幸せは、自分でつかみ取ってみせる!
おわり
といって、翌日の葉純ちゃんはひとりで下校していった。
あやかしについても、なぜだかすんなり受け入れているらしく、公園にいるアヤちゃんの髪をキレイにしてあげるんだと言っていた。金髪の人のヘアアレンジなんて、なかなかできないもんね。
葉純ちゃんは『中学生のためのお仕事図鑑』を読んで、美容師とかヘアメイクアーティストとかのお仕事に興味を持ったみたい。本がきっかけで将来のことを考えるきっかけになってくれて、嬉しい。
『アンデルセン童話集』も、きれいに拭いて図書室に返却した。まただれかが、楽しんでくれるといいな。
昨日、聖くんをよしよしして、あやかしアヤちゃんとの戦って……夢だったみたいに遠く感じる。
今日は聖くんに呼び出されたので、アヤちゃんは葉純ちゃんに任せた。
いつもの部屋でソファに座る聖くんを見て、思い出してまた恥ずかしくなる。
私、聖くんをよしよししたんだよね……。冷静になって考えると、やばい。
男の子をよしよしするとか!
ねえ、聖くんは、どう思ってる? 私のこと……。そもそも、私は聖くんのこと、どう思ってる……?
「ごめん、仁愛」
とつぜん謝られて、私はびっくりする。
「え、なにが?」
「あやかし探しに巻き込んだせいで、仁愛も、葉純とやらも、かなりキケンな目に合わせた」
聖くんはソファに座ったまま頭をさげた。そして、そのまま、口をひらいた。
「もう、俺に関わらないほうが、いい」
思いがけない言葉に、私の頭がまっしろになる。
「俺といると、みんなが不幸になる。学校でも、あやかしのことでも。俺が関わらなければ仁愛は平穏に暮らせる」
聖くんは顔をあげると、私と目をあわせずにコーラを飲んだ。
「ずるいよ、そんな……。今までさんざん巻き込んだくせに」
思わず、恨み言が口をついて出る。
「ごめん」
聖くんは、首を振る。
その姿がとても寂しそうで、はじめて会ったときのように、ガードがかたいように見えた。最近は、私に心を許してくれていたから、その姿が遠く感じてしまう。
遠く感じるけど……放っておけるわけもなくて。
「ほんとうは、私にまたよしよしされたいくせに」
よしよし、という言葉に、聖くんは目を見ひらき、耳まで赤くした。
私だってこんなことを言うのは、はずかしい。でも言わなきゃ伝わらない。
聖くんは、私から顔をそむけてピンク色の髪の毛をくしゃくしゃって混ぜる。
「あ、あれは疲労がたまったせいで……」
「私はもう、やりたくないことは断るって決めたんだ。離れてって頼まれても、断わる」
アヤちゃんには「思いのほか自己肯定感高い」って言われたけど……それでいい。
「聖くんのことを信用しているから、断わることができるの。私が断ったからといって、嫌いにならないでしょ?」
聖くんは、また泣きそうな顔になる。
「俺は、だれも傷つけたくなくて……」
「学校ではしゃべらないようにすればいいし、あやかしからは、聖くんが守ってくれたらいい」
ほんとうは、学校でも堂々とおしゃべりしたいよ。でも、聖くんを傷つけてまで、押し通すことじゃないよね。
私の提案に、聖くんは戸惑いを浮かべる。
「どうして、そこまで俺に……」
「え、どうしてって……それは……」
なんていう? そもそも、この気持ちって、なんだろう?
聖くんのそばにいたい。聖くんをよしよししてあげたい。聖くんに笑顔になってほしい。
なにより、離れたくないの。
これって、好き、ってことなのかな?
わからないし、はずかしいし、私は口ごもってしまう。
もじもじと、制服のスカートの上で手をいじくる。
その様子を見て、聖くんは立ち上がって私のとなりに座る。
「なに? ハッキリ言ってよ」
すごく、近い距離で私の顔をのぞきこんでくる。さっきまでの気弱な雰囲気じゃなくて、いつもの、ちょっとイジワルな顔つきに戻っていて……。ドキドキしてしまう。
これ、告白させたがってる、よね? でも私が告白して「ふーん、俺は好きじゃないけどね」とか言わない? 急に、ネガティブな考えが頭をよぎる。
やっぱり、自己肯定感なんて高くないよ~!
「答えてよ、仁愛」
聖くんはじりじりと近づいてくる。
そんな風に言われたら、断れないよ……。
言うしかない! 言いたい! この気持ち、伝えたい!
勇気を出して、口を開いた。
「たぶん、聖くんのことが、好き、だからではないかと……」
「なにその言い方」
ぷふっと、聖くんが吹き出す。
「だって、こういうの、はじめてだからよくわからなくて」
もう、はずかしい! 私は熱い顔を手で覆った。
くすくすと、笑い声が聞こえてくる。
「俺も、こういう気持ちがはじめてだからよくわからないけど」
聖くんが、私の両手をやさしくにぎって、顔からはがす。そして、そのまま包み込んだ。
間近に、顔が迫っている。吐息がかかりそうなくらい。
「俺もきっと、仁愛が好きだ。はじめて会った時から、きっと」
「聖くん……!」
はじめて会った時、って。河童くんに襲われた時からってこと?
その段階から、私のことが気になってくれていたなんて……。
「だから、楓くんに家に呼ぶように言ったの?」
聖くんは、うんとうなずく。
「どうしてか、また会いたくて。……ごめん、断れない性格っていうのは知らなくて」
「……今となっては、断れない性格でよかった、かも」
「少しずつ、自分のことを好きになれたな、俺たち」
私たちは、見つめあって笑いあう。
でも、聖くんはすぐに表情を厳しいものにした。
「傷つけないよう、キケンな目にあわないよう、がんばるけど……ほんとうに、いいのか?」
しつこいくらいの確認。でも、私を思ってのことだよね。5時になったら帰れ、っていうのもそう。キケンなことに巻き込むくせに、私のことを大切にしてくれている。
「いいに決まってる!」
私は、聖くんの手を握り返した。
「どんなことがあっても、私は聖くんのとなりにいたい!」
聖くんは、泣き笑いのような顔で、うなずいた。ピンク色の髪が、サラサラと音をたてるように流れる。
これから先、キケンなことがあるかもしれない。でも、きっと、聖くんが守ってくれる。
聖くんのとなりにいられる幸せは、自分でつかみ取ってみせる!
おわり
