「ねえ、シュシュ。どこにいくの?」
「もっともっと、遠くまで!」

 シュシュは、ほうきでぐんぐん飛んでいきます。
 エマの住む町からはずいぶんはなれてしまいました。

 (どこまで、いくのかな……?)
 
 エマはすこし不安になって、目の前ではためくシュシュのマントをみつめていました。

「エマ! 空を見て!」

 とつぜん、シュシュが声を上げました。
 かおを上げると、あたりはいちめん、夕日に染まっています。

「え! さっきまで青空だったのに」

 エマのことばにシュシュがあははと笑います。

「なに言ってるの? エマ。世界は広いのよ。ひるまの場所もあれば、夕方の場所もある。おなじ時間なのに、夜の場所だってあるのよ」

 オレンジに染まった空の中で、シュシュがそう言いました。

「夕日を見たくなったら、夕やけに向かって飛べばいいの!」

 シュシュの声は、オレンジ色の空にかろやかにひびきます。

 町をみおろせば、エマの住む町とはまったくちがうかたちの家やたてものが見えました。
 屋根の色やかたちも、エマが見たことのないものばかりです。

(そっか……世界には、いろんな場所があるんだ)

 ひるの場所も、よるの場所もある。
 エマの知らない町やけしき、そして色が、きっとたくさんあるのです。

「さて。ここでいいかな」

 ふたりがほうきからおりた場所は、お城みたいな大きなたてもののてっぺんです。
 シュシュは夕日にジュエルをかざしました。
 ゆうやけ色にジュエルが染まり、きらめきます。

 空は、いくつもの色をエマに見せてくれました。
 オレンジのひかりだけではありません。
 くもはラベンダー色やピンク色に染まっています。
 きいろやうすい青も、空の色にまざっていました。
 
 夕日がしずめば、ゆっくりとまた空は色を変えていって、やがて夜がやってきます。
 ふかいふかいネイビーブルーの空には、星がきらりきらりとまたたきはじめました。

(空は、こんなにたくさんの色があるんだ……)

 エマはずっと、ドキドキしながら空を見ていました。

 星がまたたく夜空にも、シュシュはジュエルをかざします。
 いくつもの星の光をかがやかせながら、夜の色が、ジュエルへとすいこまれていきました。
 

 夕やけの光をとじこめたようなジュエルも、星空をうつしとったふかい色のジュエルも、とてもきれいです。