壁の中の彼氏

「この街でも物騒なことはあるんだね」
 帰宅した亜美はベッドに座ってそっと声をかけた。
 アミのことがあって以来、男は黙り込んだままだ。
「とても平穏な街に見えるけど、十年前にいなくなった人がいるんだって」
 男はなんの反応も見せない。
 だけどそこにいるはずだ。
 男が壁から出てくるなんてこと、できるはずがないんだから。
 亜美は男の気分を害さないように何気ない風を装って行方不明者がいたことを話した。
 男はそれでも返事をしない。
 その代わり、壁の奥からゴトリと音がした。
 耳を済ませてみたけれど、それきり音は聞こえてこなかったのだった。