壁の中の彼氏

 ビールを飲みながら能天気に答える父親に亜美は左右に首を振った。
「そうじゃなくて、本当に見たことが……」
 その瞬間、ヒラリと舞う紙が脳裏に浮かんだ。
 それはこの街に引っ越してきた当日のこと、 車の後部座席で見た映像だ。
 その紙は人探しの紙で風に待って用水路へと落ちていった。
 紙は劣化していたが、それだ男性であることはわかった。
 よく思い出してみれば、今テレビで流れている人物に似ているかもしれない。
 亜美はグッと身を乗り出して男の顔写真を見つめる。
 用水路に落ちていった写真と比べてみようとしても、古い記憶だから上手く行かない。