壁の中の彼氏

 夕飯の席で父親が誇らしげに微笑む。
「私なんてまだまだだよ」
 なにせ長編小説でコンテストに入賞っした経験はまだない。
 小説家になるためにはやっぱり、長編でなにかしらの成績を収めないといけない。
 それどころか、亜美は長編小説を完結させたこともなかった。
「謙虚な姿勢でいればきっといい仕事が入ってくる」
「そういうものなの?」
「もちろんだ。お父さんだってずっと謙虚でいたから、この家を買うことができたんだからな」
 父親はそう言って豪快な笑い声を上げた。母親は呆れ顔だ。
「夢を追いかけるのもいいけど、たまにはゆっくり休むのよ」
「うん。わかってる」