反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋の中をやわらかく染めていた。
 まぶたの裏がうっすら明るくなるのを感じながら、俺は布団の中で目を閉じている。

 ――そろそろ来るな。

 玄関のノックの音がして、続いて軽い足音。
 もう聞き慣れた、あいつのリズムだ。

 「なつくん、もう朝だよ〜」

 その声を聞いた瞬間、胸の奥がじんわり温かくなる。
 ……まったく、昔から変わらない。
 けど、最近はその声が少しだけ甘く聞こえるのは、俺のせいか。

 寝息を装いながら、気づかないふりをする。
 足音が近づいてきて、布団のすぐそばで止まった。

 布団の端から、かすかに小春の匂いがする。
 柔らかくて、甘い匂い。
 そのまま、そっと覗き込むような気配がして、胸の鼓動が少し早くなった。

 ……近い。

 静かな間。
 小春が、小さく息をのむ気配。
 そして、かすれそうな声で呟いた。

 「……いつ見ても、かっこいいなぁ……」

 ――は?

 危うく反応しそうになって、布団の中で思わず息を止める。
 おいおい……そんなこと、本人の前で言うなよ。
 心臓、変な音してるだろうが。

 あいつは気づかず、さらに続けた。
 「もう、恥ずかしいよ〜……昨日のこと思い出しちゃうじゃん……」

 その言葉で、昨日の夕陽とあの瞬間が鮮明によみがえる。
 胸の奥が、少しだけ痛いほどあたたかくなった。

 「……おはよう、なつくん」
 小さな声でそう言ってから、
 「今日は、私の勝ちだね」
 って、得意げに笑う。

 ――ああ、負けたな。
 でも、不思議と悔しくなかった。

 気づけば口が勝手に動いてた。

「……は?」

 小春が「えっ!?」と飛びのいた瞬間、堪えてた笑いがこぼれそうになる。
 布団を少しずらして顔を出し、わざと眠たげに見上げる。

 頬を真っ赤にして立ち尽くす小春。
 朝日を浴びて、髪が少し光って見える。

 驚いた顔も、照れた顔も、なんでこんなに可愛いんだろう。

 ――もう、この先ずっと負けてもいいかもな。
 そう思いながら、俺は小さく笑って「おはよう」と呟いた。