反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

 しばらく走ると、車内はお菓子の袋を開ける音と笑い声でいっぱいになった。

 先生の声も遠くに聞こえて、どこか夢の中みたい。

「ねぇ小春、これ食べる?」
 凛がポテトチップスを差し出す。
 それを受け取りながら、ふと前の席を見ると――

 夏樹が、窓の外を見たままイヤホンを片耳に差していた。
 風に揺れるカーテンの隙間から、横顔が少し見える。

 久しぶりに見る、大好きな横顔だった。
 その瞬間、彼が小さく振り返った。
 視線がかすかにぶつかって、時間が止まる。

「……小春のこと、見過ぎだよ、夏樹くん」
 秋の低い声が、バスのエンジン音に混ざって届く。

「べ、別に!」
 あわてて視線を逸らすと、前の席から秋の笑い声。

「やっぱり、落ち着かないみたいだね」

「うるせぇ」

 そんなやりとりを聞きながら、胸の奥がほんの少し温かくなる。
 修学旅行の始まり。
 この数日で、きっと何かが変わる――そんな予感がしていた。