日曜日の朝。
 鏡の前で、何度目かわからないくらい髪を整える。
 お気に入りのワンピース。ほんのり桜色のリップ。
 ――今日は、なつくんと初めてのデート。

「家まで迎えに行くって言ったのに」
 メッセージを見て、思わず笑ってしまう。
 そう送ってきた夏樹の文字の向こうで、きっと少し困ったように眉をひそめてる顔が浮かんだ。

「こういうのは、待ち合わせするのが楽しいんじゃん!」
 そう返して、スマホをぎゅっと握る。
 なんだか胸の奥がくすぐったくて、落ち着かない。
 駅前で夏樹を待っている時間さえ、今日は特別に感じる。

 秋の風が髪を揺らす中、改札の向こうからゆっくりと歩いてくる夏樹の姿が見えた。
 黒いパーカーにジーンズ。いつもより少しだけ髪が整っていて、思わず見惚れてしまう。

「……待った?」
「ううん、今来たところ!」
「ベタだな」
「いいでしょ、デートっぽくて!」

 自然と笑い合って、視線が合う。
 その瞬間、胸の奥がふわっと温かくなった。