「お邪魔します」
「はいはい、おかえり!」

 夏樹のその声に、 小春の両親が嬉しそうに答えた。
 小春の家のリビング。テーブルの上には、両親が作った晩ご飯が並んでいる。

 たわいもない会話が聞こえてきて、一気に賑やかになった気がした。

「おかえり、夏樹」
「おう。ただいま。ーー今日、授業どうだった?」

 学校での態度とは違い、それは自然な声色だった。

「えっと……今日の数学、ちょっと難しくて」

 夏樹はふーんと頷き、さりげなく自分のノートを差し出す。

「ここ、俺の解き方。参考にしてみ」

 普段は冷たく突き放すくせに、こういうときは自然に手を差し伸べてくれる。

 夏樹は当然のように座り、箸を取りながら小春の両親との会話を楽しんでいた。

 食事の間、礼儀正しく、丁寧に話す夏樹。
 笑顔を絶やさず、会話を弾ませるその様子に、小春は改めて驚いた。

(……本当に、いい子なんだよなぁ)

 箸を置き、グラスに水を注ぐ夏樹の手元を見つめながら、小春は小さくため息をついた。
 学校ではあんなにツンツンしているのに、ここでは自然体で、しかも優しい。