罪な僕は君と幸せになっていいだろうか

朝目を覚ますと、見慣れた部屋が視界に映った。
月海くんの家での生活も随分と慣れてきた証拠だ。
僕は体を起こし、顔を洗うために部屋を出た。
あくびをしながら廊下を歩いていると、悠人に声をかけられた。

「おはようございます蒼唯様。今日は起床時間が少し早いのですね」

「おはよう悠人。まあね。今日は生徒会の定例会議で、資料を作ろうと思って」

僕がそう言うと、悠人は納得したように頷いた。

「ああ、なるほど。通りでお早いわけです。では、準備を早めに済ませますね」

「助かるよ」

悠人はいつもと違う目をしていた。
きっと気がついている。
僕が“なにか”に悩んでいるってことに。
そんな視線に気がつかないフリをして、僕はまた廊下を進んでいった。

***

放課後になり、僕はいつものように生徒会の資料作りのためにパソコンを使っていた。
作業を始めて約1時間。
集中力も切れ始めて、僕は一度パソコンから目を離した。

「それでは鷹栖会長、私は帰りますね。お疲れ様です」

「会長お疲れ〜。また明日!」

今声をかけてきたのは会計係の楠真緒(くすのきまお)さんと、黒須結心(くろすゆうしん)くんだ。
ふたりは幼馴染でよく一緒に帰ってるみたいなんだよね。
僕はふたりに向かって笑顔で頷いた。

「ふたりともお疲れ様。明日もよろしくね」

パタンと音がして、部屋のドアが閉まった。
静まり返る生徒会室に残っているのは、僕と琉偉だけだ。
あの告白の一件から、琉偉といるのはなんだか落ち着かない。
今だってじっと見つめてしまう。
いつも通りに接することもできず、僕はただ見つめることしかできない。
話しかけるなんて絶対できない。
そう考えていると、琉偉が突然話しかけてきた。

「蒼唯。この資料確認頼める?あと、コーヒー淹れるけど蒼唯はいる?」

さも当然かのように話しかけてくる琉偉。
けれど、今までとどこか違う。


そう、目線が全く合わないのだ。


きっと琉偉も意識してるんだ。
僕だけじゃなかったと安心する反面、もとの関係には戻れないかもという不安が出てくる。
でも、僕はなにも知らないフリをして言う。

「ああ、うん。資料はここに置いておいて。コーヒーは…せっかくだし、もらおうかな」

「わかった。ちょっと待ってて」

そうして資料を置いた後、部屋を出ていった。
僕はホッと一息つく。
なんだか変な緊張がなくなって安心した感じ。
でも、嫌だな。
琉偉と今までの関係に戻れないなんて嫌だ。
僕はこんなこと望んでいないのに。


恋って、すごく厄介だ。


***

夜になって、僕は寝る支度を整えて生徒会の仕事の続きをし出した。
今は寝る気分じゃないし、仕事なら集中できると思った。
けれど、そうはいかなくて。
仕事にさえも集中できないほどになっていた。
そんな僕の変化に気がついたのか、洸樹が話しかけてきた。

「蒼唯様、どうしたんですか?なんだか今日は複雑な表情ばかりですね」

いつも鈍感な洸樹にさえ気がつかれてしまうなんて。
僕はため息をついた。

「ほら、またため息です!なにかあったんでしょう?俺でよければ聞きますけど…」

言ってなにになるのだろう。
とっさにそう思ってしまった。
僕はずっと自分の中に不安なんかはため込んできた。
だから、僕は誰かに相談するということがわからない。
僕はそう考えていると、洸樹が優しく言った。

「そういえば、蒼唯様は家庭環境が複雑で相談ができなかったんですよね。いきなりこんなこと言われても困るわけです」

ひとりで納得している。

「でも、いいですか?俺は蒼唯様に自分の意思で仕えてるんです。だから、困ったときは蒼唯様を支えたいって思ってます。だから、話してくれると嬉しいんです」

そんなこと初めて言われた。
僕にそんなこと言ってくれる人ができるなんて、正直夢にも思わなかった。

「言っても…いいのかな?」

「はい。もちろんです」

動じることなく即答してくれた洸樹がいたから、僕は彼に相談することができた。
幼馴染である琉偉に告白されたこと。
好きな人が月海くんだということ。
そして、月海くんの婚約者の存在を知ったこと。
僕がどうするべきか迷っているということ。

結局洸樹はアドバイスなんかはくれなかったけれど、ただ共感して聞いてもらえただけで今の僕には十分だった。
もっと黒羽さんのことを知ってみたいと思ったのは、彼に相談したのがきっかけとなった。