マイクとマウンド、夢の向こうへ

春の風が、花壇のチューリップを優しく揺らしていた。

正瞭賢高等学園、卒業式。

 体育館には、どこか温かな空気が満ちていた。

 「卒業証書授与──斎藤芳尚」
「卒業証書授与──秋山深明」
「卒業証書授与──宝月麗菜」

筒に入った卒業証書。

 受け取った瞬間、学園での思い出が、頭の中に浮かんでは消えていった。

 晴れやかな拍手のなかで、時間は静かに進んでいく。

 送辞は、深明が述べることになっている。

壇上に上がった彼女は、一礼をすると、ひとつ、深く息を吸ってから、口を開いた。

「こうして、無事に卒業の日を迎えられたこと。
支えてくれた全ての皆様のおかげです。

 心より、感謝申し上げます。
 

私たちはこれから、それぞれの夢に向かって歩み始めます。

 誰もが同じ道を歩むわけではありません。

 それぞれが歩むこれからの道は、厳しいこともあるでしょう。
 厳しいことだけではなく、嬉しいこともたくさんあるはずです。

 努力の大切さ、仲間を思いやる気持ち。
 
何よりも、自分を信じる力。

 この学園で、私たちは様々なことを学びました。

 辛いことがあったとき、それらを思い出すと、不思議な力が湧いてくる気がします。

 何かに迷ったときは、この学園に来てみるのも、良いかもしれません。
 そ
のときは、かつての教師たち、後輩たちが未来へ進む力をくれるはずです。

 長かったようで、あっという間だった3年間でした。
 本当にありがとうございました。

 深明がマイクをおろすと、惜しみない拍手が送られた。

 深明の切れ長の目から、そっと涙がこぼれた。