好きです、先輩。







なぜ、







なぜ私は言われるまで気づけなかったのだろう。






一切考えもしなかったことだった。










まさか、身元不明の会社員男性が先輩だなんて、微塵も思わなかった。



思わないことが普通だと思う。



しかし、同時に複雑な感情が込み上げてきた。




悔しかった。



彼に言われるまで気づかなかった自分に。









高頻度でくだらない内容の電話をかけてくる彼とは、昼間に話すことが多かった。



夜にかけてくることは、滅多なことがない限りなかった。



その時点で、身構えておくべきだった。



いや、いつもの私だったら身構えていた。



浮かれていた私は何も気にせず電話をとってしまった。



返答できずにいる私に彼はそのまま続ける。









『偶然かもしれないけど車の色は同じだし、』










『事故の記事の写真だと車種までは分からないけどさ』










『事故が起きた時間と場所が、あまりにも先輩に当てはまりすぎてるんだよな』









『いまだに返事きてないんだろ?今までは1日以上空くことなんてなかったのに』












『…あ、違ってたら本当にごめん。でも、ずっと連絡こないって言ってたじゃん?』











現実を受け入れたくなくて何も言い返せずにいる私にやっと気付いた友人は、慌てて弁明した。















「…とりあえず、今から先輩の家に行ってみる」








『は?今から?』






「一緒に行こうよ」








『…いや、明日も仕事だし俺はもう寝る』








「そうだよね。教えてくれてありがとう」









『まだ確定した訳じゃないから!判明するまではまだわからんよ』









「わかってる。おやすみ」














言葉に覇気がない私を心配しつつも、じゃあ、おやすみ、と友人は電話を切った。












思考が追いつかない中、改めて先輩とのやりとりを見返す。


いまだに既読にはなっていない。









いや、まさかね。まさかだよ。











しかし、友人の推理で、全ての辻褄が合ってしまった。












先輩から返事が来なくなったのは、事故が起きた当日からだったからー。