セーヌ川では泳げない

「きみの期待する答えはしないんだ」
「できない、じゃなくて、しない、のね?」
「だって今、きみはそれを望んでいないじゃない?」
グラスを落としそうになった。また。
ふわっと、
何かがやわらかく、そっと唇に触れた。(甘くて渋い赤ワインのフレイヴァーを持って)

「美味しいよね。このイギリスワイン」

「え、」
彼が次の瞬間放った言葉を聞いて、私は固まった。
「これ、フランスワインじゃないの!?」
「うん。
イギリスはね、温暖化の影響でワイン作れるようになったんだって。あったかくなったから」
「え」

「え? 俺の言うこと信じたの?」

「きええええええええええええ!!」
「アハハハハー!!」
(バカみたい、バカみたい!! こいつの言うこと真に受けて。ファーストキスまで許しちゃって!!)
彼が右手にグラスを持ったまま、軽やかに私のネコパンチを避ける。踊るように。風とともに舞うように。
(綺麗だ)

「ねぇ、きみさぁ!」
「何よ!!」
「俺の前では本音出ちゃうんでしょ?」
(ぎえ)

「ねぇ、
それってサイコーじゃん?」