まるで明日の天気について話すように彼は話す。いつでも。(軽い話題もそうでない話題も)
どこまで踏み込んで良いのかわからなくなる。他人との距離を読むのに慣れていない。
ひとつ灯りが消えた。ゼミか講義が終わったのか。別の場所の灯りがつく。新しい何かがはじまり、
いつのまにか西の空のカクテルは夜の青のグラデーション。
「冷えてきたね」
彼がワイングラスを手すりに置き、さっと自分の上着を脱いで私の肩にかけた。あ、あったかい。ほんのりとホワイトムスクの香りがする。彼がいつも身にまとうおなじみのデオドラントの香り。
「ありがとう」
「どういたしまして」
顔も少しあたたまってしまった。声がかすれた。彼はグラスの中の赤ワインを揺らして笑顔で答える。なんでもないかのように。
上着の下は黒い半そでのTシャツだった。
「寒くないの?」
「暑いから脱いだ」
「暑いの?」
「うん、ほら」
彼が私の右頬にそっと触れた。本当だ。あったかーい。
彼の瞳はよく見ると黒の中に緑色や茶色が混じって見える。目の形はまんまるで深い二重があり、ぷっくりとした下まぶたがある。ひかえめにラメを乗せて白いアイラインを引いた。
年齢より少し幼く見える丸顔なのに、形の良い堂々とした鼻と紅色に塗ったぽってりとした唇があるから、そのアンバランスさに逆に色気を感じる。肌の色は抜けるように白い。美少年と美青年の間の色気。生涯でほんの一瞬の。
「きみって、誰とでも仲良いよね」
「そうかな」
「誰とでも仲良いって結局誰とも仲良くないってことじゃない?」
「そうかも」
悪意も好意もすべて軽く受け流す。逆にそれが彼の武装に見えた。酔いのせいかな。
「私、この大学に入るまで居場所がなかった」
どこまで踏み込んで良いのかわからなくなる。他人との距離を読むのに慣れていない。
ひとつ灯りが消えた。ゼミか講義が終わったのか。別の場所の灯りがつく。新しい何かがはじまり、
いつのまにか西の空のカクテルは夜の青のグラデーション。
「冷えてきたね」
彼がワイングラスを手すりに置き、さっと自分の上着を脱いで私の肩にかけた。あ、あったかい。ほんのりとホワイトムスクの香りがする。彼がいつも身にまとうおなじみのデオドラントの香り。
「ありがとう」
「どういたしまして」
顔も少しあたたまってしまった。声がかすれた。彼はグラスの中の赤ワインを揺らして笑顔で答える。なんでもないかのように。
上着の下は黒い半そでのTシャツだった。
「寒くないの?」
「暑いから脱いだ」
「暑いの?」
「うん、ほら」
彼が私の右頬にそっと触れた。本当だ。あったかーい。
彼の瞳はよく見ると黒の中に緑色や茶色が混じって見える。目の形はまんまるで深い二重があり、ぷっくりとした下まぶたがある。ひかえめにラメを乗せて白いアイラインを引いた。
年齢より少し幼く見える丸顔なのに、形の良い堂々とした鼻と紅色に塗ったぽってりとした唇があるから、そのアンバランスさに逆に色気を感じる。肌の色は抜けるように白い。美少年と美青年の間の色気。生涯でほんの一瞬の。
「きみって、誰とでも仲良いよね」
「そうかな」
「誰とでも仲良いって結局誰とも仲良くないってことじゃない?」
「そうかも」
悪意も好意もすべて軽く受け流す。逆にそれが彼の武装に見えた。酔いのせいかな。
「私、この大学に入るまで居場所がなかった」



