朝、窓の外を見ると、世界は真っ白だった。
 一晩で降り積もった雪が、街も木々も覆い尽くしている。

 手を窓ガラスに押し当てると、冷たさが指先に伝わる。
 心の奥が少しわくわくしながらも、胸の奥がぎゅっとする。

(……今日、陽翔くんと一緒に学校に忍び込むんだ)

 そんな思いで、制服を整えながらも心はそわそわしていた。



 校門の前で、陽翔くんが待っていた。
 黒い髪に雪が少し積もり、前髪が少しかかる瞳は澄んでいて、でも少し眠そう。

「……おはよう。準備はできてるか?」
 ぶっきらぼうに聞くけれど、その目には楽しそうな光がある。

「うん、準備万端だよ」
 わたしは少し照れながら答え、手袋をしっかりはめる。



 二人で歩く雪道。
 足元に新しい雪がふわりと舞い、踏むたびにキュッと音がする。
 冷たい空気に頬が赤く染まり、息が白く漂う。

「……誰も来ない時間に入るから、気をつけろよ」
 陽翔くんが小さな声で言う。

 わたしは小さく笑い、頷く。
 心臓が少し早くなるのを感じながら、二人で校舎の裏口へ向かう。



 裏口のドアは少しだけ開いていて、雪の匂いが校内に漂っていた。
 廊下に入ると、日常のざわめきはなく、静寂だけが広がる。
 二人の足音が雪の音と重なり、特別な時間の始まりを感じさせる。

「……わあ、静かだね」
 わたしがつぶやくと、陽翔くんは少し照れた笑みを見せる。

「……特別な日ってやつだな」

 その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。
 秘密を抱えたままでも、こんな瞬間を共有できる喜びに、心が少しほぐれる。



 教室の窓際に座り、外の雪景色を眺める。
 白く覆われた校庭、静かな冬の世界。
 陽翔くんがそっと手を伸ばし、わたしの手に触れる。

(……手のぬくもりだけで、こんなにも安心できるなんて)

 知らないふりをしてくれる陽翔くんの優しさが、胸の奥に深く染み渡る。



 しばらく二人で窓の外を眺めていると、時間が止まったように感じた。
 雪が舞う音、遠くで風が木々を揺らす音、そしてそばにある手の温もり。
 この静かな時間の中で、わたしは秘密を抱えながらも心を少しずつ開いていく。

図書室に忍び込む。
 雪が静かに降る音だけが、窓の外から聞こえる。
 二人で窓際に並び、外の白い世界を眺める。

「……ずっとここに居たいな」
 小さくつぶやくと、陽翔くんは少し顔を赤らめて笑った。

「……俺もだ」
 その言葉に胸がじんわり温かくなる。
 秘密を抱えたままでも、彼のそばにいることが心地よい。



 手を重ねる。
 冷たい空気の中、手のぬくもりが胸に広がる。
 陽翔くんは何も言わず、ただ寄り添ってくれる。
 その存在だけで、わたしは安心できた。

(……このまま、時間が止まればいいのに)



 窓の外の雪は舞い続ける。
 二人で過ごす静かな時間の中、自然に笑顔が増える。
 陽翔くんの優しさに触れながら、秘密を抱えたままでも心を委ねられることに、わたしは少しだけ救われる気がした。
図書室で少し休んだ後、二人で校庭に出る。
 雪はさらに深く積もり、校庭全体を真っ白に染めていた。
 冷たい空気の中、わたしは手袋の手を陽翔くんに差し出す。

「……手、冷たいだろ」
 ぶっきらぼうだけど心配そうに言う。
 わたしは小さく笑い、手を重ねる。
 その温もりに、胸の奥がぎゅっとなる。



 二人で雪の上を歩く。
 足跡は二人だけの道のようで、踏むたびにふわりと雪が舞う。
 白い世界の中で、陽翔くんの存在が特別に感じられる。

「……こうして二人で歩くのも、悪くないな」
 陽翔くんの言葉に、わたしは思わず笑顔になる。

(……秘密を抱えたままでも、こうしていられる幸せ)



 少し開けた場所で、二人で雪を蹴りながら遊ぶ。
 笑い声が雪の静寂に溶けて、二人だけの世界を作る。
 陽翔くんがそっと肩を貸してくれると、心の奥の緊張がほぐれる。

 ふと見上げると、雪が空から静かに舞い落ちていた。
 冷たい空気の中で、手のぬくもりと心の温かさが同時に胸に広がる。



 校庭の隅で座り込み、二人で雪景色を眺める。
 陽翔くんは黙って手を重ねてくれるだけ。
 その存在が、言葉以上に心を支えてくれる。

「……ずっと、こうしていられたらいいのに」
 わたしがつぶやくと、陽翔くんは少し照れながらも小さく笑う。

「……俺もだ」
 その声に、胸の奥がじんわり温かくなる。
 秘密を抱えていることも、今は忘れてしまえそうだった。



 帰り道、二人は手をつないだまま歩く。
 雪の白さと静けさが、時間をゆっくりと流してくれる。
 心の奥に温かさと切なさが入り混じり、胸がぎゅっとなる。

 家に帰ると、悠斗がいつも通り温かい飲み物を用意して待っていた。
 手を差し伸べる彼の存在も、日常の中の小さな奇跡のように感じる。



 夜、ベッドに横たわり、ノートを開く。
 今日の出来事を書き込みながら、心を整理する。

――雪の校庭で陽翔くんと遊んだ
――二人だけの特別な時間
――手のぬくもりと心の温かさに包まれた

 文字にするたび、胸の奥の温かさが増していく。
 窓の外には雪が舞い続け、静かな夜を包み込む。



 その夜、そっとつぶやく。

(秘密を抱えたままでも、陽翔くんと一緒にいられる幸せは、何にも代えられない)

 胸の奥に広がる温かさと切なさが、わたしを少しずつ強くしてくれる。
 雪の冷たさを忘れるほど、手のぬくもりと心の温かさに包まれて眠りについた。