久しぶりに楽しかった。

 学校にいけていない俺でも、人と一緒に楽しむということができるという発見に喜びを感じた。

 ユズは、俺が学校に行ってないって言ったら、どう反応するのだろう。

 その事が、頭をついて回る。

 希望として思っているだけなのかもしれないけれど、きっと馬鹿にしないと、思えた。

 そして、学校に行っていない身でありながらも、普通の中学生になりたかった。

 普通に恋愛をして、友情をはぐくんで、でもネット上だし普通には無理だから、名前だけでも、と思った。

 だから、「付き合ってみようよ」と言った。

 ただの好奇心。

 いいよと言われて、嬉しかった。

 心が少し安らいだ。

 俺は、気持ち悪いやつなんかじゃないと、大丈夫だと思うことができた。




 ゆ「ユズは彼氏とかいるの?」

 唐突な質問に、私は少し驚いた。

 心臓が一瞬だけ早くなった気がする。

 ユ「いないよ」

 ゆ「じゃあ、好きな子はいるの?」

 ユ「いないかな」

 確かにいないけれど、送信ボタンを押すのに勇気が要った。

 指先が震えているのを感じる。

 ゆ「人の心を冒瀆してるって思われる行為なのかもしれないけどさ」

 ゆ「名前だけでいいから、ユズの彼氏になりたい」

 あくまで、名前だけ、か。

 嬉しいのに、どこか切なさを感じる。

 だけど、「名前だけ」というところに彼のやさしさと遠慮が滲んでいるようで、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 ユ「いいよ」

 ゆ「よかった ありがと」

 その瞬間、胸の中に小さな光が灯ったような気がした。

 名前だけの関係。

 それでも、彼の言葉には不思議な安心感があって、画面越しに伝わる彼のやさしさに、自然と笑みが零れた。