桜が咲く時まで、生きていたい

姫奈の病室があるのは五階だ。

羽田と一緒に一階まで一旦降りる。

「姫っ!!」

後ろから大きな声で呼び止められた。

姫奈の大好きな宗一郎の声だった。

恐る恐る振り向くと、そこには疲れ切ってやつれた顔をした宗一郎が、悲しげな、でもどこか安心したような顔をして立っていた。

下手すると、今の姫奈よりも顔色が悪いかもしれない。

「宗一郎くん…」

「話がしたい」

ここで逃げたら、後悔してしまう。

ここにきてやっと、決意が固まった。

「うん。移動しよう」

外で運動しようと誘ってくれた羽田に断りを入れ、姫奈の病室に宗一郎と共に帰った。

姫奈は個室なのでゆっくり話すなら個室の方がいい。

「どうぞ」

二人で部屋の中の椅子に腰掛けようとしたが、姫奈の体が座ったままという状態に悲鳴をあげた。

「…っ」

「大丈夫か!?」

そんな姫奈の変化にすぐに気づき、ベッドまでサポートしてくれる。

「…なぁ、姫。一個聞いていい?」

「うん」

「姫奈は貧血って言ってたけど…。あれは本当?」

「…ううん」

「じゃあ…。この状況は…?」

「ねぇ、宗一郎くん。私のこと話す前に、一個聞いてもいい?」

「うん」

「どうして、あんな振り方したのに、こんなに必死になってくれるの?」

もう、何が何だかわからない。もう少し心の準備ができてからちゃんと話そうと思っていたのに。

思いがけず出会ってしまった。

「それは、姫奈のことが諦められないから。俺の隣にいるのは、姫奈しか考えられない」

真剣なその瞳に、思わず涙がこぼれた。

「そっか…」

「俺は、姫奈のどんなことでも受け止めるから。話してほしい。俺なりに、この数日、ずっと考えてたんだぞ?姫奈は一方的に縁を切るような子じゃない。そうしたのには、何か理由があるんだって」

その言葉を聞いて、一気に涙が溢れる。

「ごめんっ。ごめんねっ…」

涙が止まらなくて、息が苦しくなって、最近の姫奈にはもう、自分で自分の体をコントロールすることが難しくなってしまったので、

羽田さんにきてもらい、気持ちを鎮めた。

その際も、一切目を逸らすことはしなかった。

「私ね…病気なんだ。わかったのは、今年の四月ぐらい。その時にね…言われたの。持って、あと一年。でも、私がかかった病気は珍しくて。重症化するケースももっと珍しかった。どうなるかわからないし、どう治療していいかも手探りだって」

あはは、と笑いながら話すと、突然力強い腕に抱き締められた。

「ごめん。俺の方こそごめんっ」

「なんで宗一郎くんが謝ってるの?謝るのは私のほうだよ。先がないのに、付き合ってごめん。好きになってごめん。悲しませたくなかった…」

「違う。俺は、姫奈がいたからこそ幸せになれた。あんな振られ方しても好きだったし、悲しかったけど、何も知らずにいる方が嫌だ…!話してくれてありがとうっ」

しばらく二人で抱きしめあったまま、落ち着くまでまった。

次に宗一郎の顔を見た時、いつも見ていた宗一郎の顔よりも、綺麗な笑顔だった。

「ごめん。詳しいこともちゃんと自分の口から話そうと思ってたけど、無理だ。担当の、小牧先生にバトンタッチしようかな」

久しぶりに感情の振れ幅が大きかったせいか、だいぶ体が疲労していた。

「はいよ」

と言って来てくれた先生の話を真剣に聞く宗一郎の横顔を見ながら、いつの間にか眠ってしまった。