桜が咲く時まで、生きていたい

ピピッ____ピピッ___

今ではだいぶ聞き慣れてきた無機質な音に目がさめる。

「あ、目が覚めた?ここどこかわかる?私のこと覚えてる?」

「…病院。あなたは…誰でしたっけ?」

「いや私のことだけわかってない!?」

「嘘です。小牧先生です」

だんだん脳が回転し出して、出来事が蘇る。

「そっか…。私振っちゃったんだ…」

「やっぱそうか。状況と状態見て薄々そうかなとは思ってたけど」

どうやら丸1日眠ってしまっていたらしい。

両親もさぞ不安になっているだろう。

「それでね、姫奈ちゃん。だいぶ数値悪いよ。このままだと、年内だよ」

どうやらこの病気は姫奈の精神状態に合わせて変化しやすいらしく、精神が不安定だと免疫が下がって一気に悪化する。

「とりあえず、ご両親に報告しとくね。起きたら連絡するって約束だから」

「はい…」

宗一郎は、何を思っただろうか。もう、嫌いになってしまっているだろう。

そういうふうに振る舞ったのは姫奈の方だ。

しばらくして、両親が部屋にやってきた。

「姫…!よかった…!」

「心配したのよ…。宗一郎くんのこと、振ったんだって?」

なぜ、お父さんとお母さんが知っているのだろうか。

「昨日、姫奈が倒れて病院に戻ったっていうの聞いて、私たちもすぐに向かったのよ。でもあなたは起きなくて…」

小牧先生がそっと席を外すのを視界の端で捉えた。

「お父さんたちが帰った後、20時ぐらいだろうな。宗一郎くんが来たんだ。お前と話をしたいって言ってたぞ」

あんな振り方をしたのに、宗一郎はまだ諦めていなかった。

それを喜んでしまっている自分がいる。

もう、関わっちゃいけないのに…。

「もう、会わない。というか、会えないよ…こんな姿じゃ」

「姫奈…」

そんな時、面会時間の終わりを知らせる看護師さんがやってきた。

カーテンが締め切られていたため気づかなかったが、もうそんな時間らしい。

というか、ほぼまる二日眠っていたことになる。

「また明日、来るわね」

「とりあえず、しっかり休みなさい」

「ありがとう。お父さん、お母さん」

そう言って二人が去っていった後、姫奈は横になった。

もう、頑張る理由がなくなってしまった。

あの、キラキラした毎日は、宗一郎がいてこそ成り立っていたものだった。

その宗一郎も、自分から振ってしまった。

治療を続けるのにも、お金がかかる。

(私は…いないほうがいい…?)

そんな時、ガラガラっと扉が開き、小牧先生が入ってきた。

「本当はよくないんだけど、夜のお散歩、いく?」

「…行きます」

こそこそと二人で屋外に出る。

「後悔してる?彼と別れたこと」

「いいえ。してないです」

ほんとかー?と言って先生は笑う。

「本当に、それでいいのか?」

「…」

答えられなかった。ちゃんと、はいと言えると思っていた。

「なんで、言わないの?」

何を、とは言わなかったが、おそらく病気のことだろう。

「言えないですよ…こんなの。学校での私、知ってます?最近知ったんですけど、ファンクラブまであるらしくて。そんな私がこんなになっちゃってるって知ったら、離れるに決まってる。宗一郎くんに振られるぐらいなら、私から振ったほうがいいです」

「…なんで、決めつけてるの?なんで離れるって決めつけてるの?」

「え…それは…。宗一郎くんは、キラキラな私しか知らないし…ほらそれに!余命宣告まで受けてるじゃないですか!?そんなの言ったところで、困らせちゃうだけだし、何より、悲しませちゃう」

夏の少し生ぬるい風が吹き抜ける。

「それも、決めつけてるだけじゃない?その宗一郎って子は、姫奈ちゃんの何を見て好きになったの?彼は、あなたの今の状況聞いて、離れて行ったりする子?」

わからなかった。ただ、逃げているだけかもしれない。

「少なくとも私には、その子がそんなことするような子には思えないよ。姫奈ちゃんの話からも、ご両親の話からも。まぁ、どうするか決めるのは姫奈ちゃんだし、私が言うことじゃないんだろうけど。後悔はしてほしくないから」

どうせなら、笑顔でね、と言って先生は笑った。

その後、病室に戻り、さっきの先生の話を反芻していた。