桜が咲く時まで、生きていたい

「海、楽しみだね!」

「あぁ…。姫、可愛いな」

「…!?」

不意打ちに顔が赤くなる。心なしか心臓もうるさい。

顔が熱くなったのを感じる一方で、妙に心が冷たくなる。

(私は本当に宗一郎くんと一緒にいてもいいのかな…)

最近、病気がどんどん悪化している。

姫奈はここ数日、別れるべきか悩んでいた。

このまま付き合っていても、病気を隠すのには限度があるし、悲しい思いをさせてしまう。

それなら…と考えているのだ。

海までの移動の間、姫奈と宗一郎は夏休みに入ってからの出来事を話していた。

宗一郎はいつものメンバーで遊びに行ったり、受験勉強をしたりとなかなか忙しい日々を送っているようだった。

一方の姫奈といえば、ほとんどを病院で過ごしている。

来週には千佳や瑠花などとのお泊まり会も企画されているが、それだけである。

宗一郎には、毎日勉強漬けだとだけ話した。間違ったことは言っていない。

そんな会話をしているうちに海辺に着いた。

とは言っても、姫奈の家からバスで30分、病院から行けば15分のところにあるで、近場である。

キラキラと輝く海の光を浴びる宗一郎は眩しかった。

そこで、姫奈の気持ちが固まってしまった。

「姫…?」

前を歩く宗一郎が不思議そうな顔で振りかえる。

(これ以上、輝かしい未来が待っている宗一郎くんを私の元に縛り付けておくことはできない…)

それでもいざ口に出そうとすると、胸が苦しくなって、声が出なかった。

声よりも先に涙が出そうになる。

いざ覚悟を決めると、それまでの宗一郎との記憶が次々とフラッシュバックしてきた。

まだ、恋人らしいことは何もできていない。

でも、学校終わりに一緒に帰っている時の会話や、普段の何気ない出来事。

苦しい。でも…。

一つ、大きく深呼吸をする。

「宗一郎くん」

「…?」

真剣な顔の姫奈を見て、不安げな顔になる。

しっかりと目を合わせ、声を出した。

「…別れてほしい」

言い終えた後、時が止まったような錯覚に陥った。

ゆっくりと宗一郎の目が見開かれていく。

「…なんて?」

「別れよう。別れて欲しい」

今度は少し強く言った。

「俺、なんかした…?」

「ううん。何もしてないよ。ほら、お互い受験で忙しくなるし、付き合ってみて思ったの。宗一郎くん人気だし、私には荷が重いかなって」

すると、肩を掴まれた。

「嫌だ。俺は別れない。受験だって、今のところは大丈夫だし、」

普段は絶対にしないことだが、気持ちをキッパリと区切るためにも話を遮って止める。

「ううん。今は、そうかもしれない。でも、未来にどうなるかんて誰にもわからないんだよ」

「…っ!でも、俺は姫に…姫奈にずっと横にいてほしい!」

「ごめん…」

涙が溢れそうになる。でも、ここで泣くわけにはいかない。

ここで泣いたら、姫奈にも気持ちがまだあると思わせてしまう。

実際は好きで好きでたまらないのだけれど、その気持ちを言うことは許されない。

宗一郎は今の姫奈への気持ちを忘れて次に進むべきなのだ。

一方的に気持ちを伝え、その場を離れようとする。