「え、と蓮木くん?」


 蓮木陽弥。私たち中学1年生の人気者。私とは




住む世界が違う人。



「えっ!?立月さん。。。!?」



 名前知ってるんだ。。。人気者ってすごい。




 勉強してるところを見られたからか、顔を赤らめ



ている蓮木くん。



「勉強してるの?」



 なんとなく他の場所でやるのも気まずくて、蓮木



くんの隣に座る。



「あ、うん、そうなんだけど、全然わかんなく


てさ」


 蓮木くんはバスケの特待生として入学してきた




はず。



特待生は学費免除されるからその座を狙う人は多い。



 ちなみに私は特待生じゃない。虹湖はプレゼンで



好成績を残して特待生とまではいかなくても少し



学費免除されてるみたい。



「あー、そこね。私教えようか?」



 静かに勉強出来なさそうだし。




「え、いいの!?ありがとうございます。」



 めっちゃ懐く犬みたい。尻尾ふりふりしてそう。



 なぜか彼のきらきらした目から逃れたくて、



がたっと椅子をならす。




「え、えっと初めよ。ここわかる?」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 結局学校が閉まるまで勉強教えてた。



「ごめんね、長かった?家大丈夫?」



「大丈夫〜今日は兄が帰ってきてるから」



 夜だから大丈夫だと思うけど、ふたりきりで帰り



道を歩いてるなんて噂が流れたらひとたまりも




ない。私が。




「あと、立月さんめちゃめちゃ教えるの上手いな!



憧れるわ〜」




 人気者はお世辞まで上手い。私なんかに憧れた



ってなんもないのにさ。




「ありがと。まあ、勉強しか取り柄ないし」



 私の自己評価。あと図書館マニア。



 それを言うと、蓮木くんは真面目な顔で口を




開いた。




「。。。立月さんにはもっと魅力あると思うけどな」




「ん?何か言った?」





微妙に聞き取れなくて、聞き返すと、焦りがちに




なんでもない、と言われた。





「俺さ、バスケしか出来ないから、バスケ強いとこ




入ったけど、バスケ部のみんな成績ちゃんと



とってるのに、俺、何やってんだろ、って。



そりゃあ、広星に言われるよな。。。」



 井口広星。蓮木くんと同じバスケ部で、蓮木くん



に次ぐ人気者。だけど彼は1番に固執していて蓮木



くんを目の敵にしている。第三者から見ても、井口



くんの一方的な嫉妬だってことがわかる。



全然、蓮木くんが気負うことじゃないのにな。




「でも、蓮木くんの努力してるところはすごいと



思う。バスケも、人間関係も頑張ってるのに」





 私の本音。蓮木くんみたいに全部に全力なんて


注げない。




「だから、もっと自信持っていいと思うよ」



 長めの沈黙。


「。。。ありがと。なんか頑張れそう」



 みんなをとりこにする人気者スマイル(?)。きら



きらした目は、夜闇でもよく見える。




「あのさ、また、教えてくれない。。。?」



 家へ向かう分かれ道。蓮木くんはそう言った。



「。。。いいよ。私なんかでいいなら。」



「え、やったあ!じゃあ、また!!」



 すたこらさっさと家へ帰っていく蓮木くん。




 。。。勉強を教えてくれれば誰でもいいんだよ、




そうだよね。




 興奮したような、清々しいような気持ちなのは



きっと、人の頑張りを間近で感じたから。