律の胸は二つの思いに引き裂かれていた。
――京の願いを叶えてやりたい。
――だが、私にはもう京しかいない。外になど出してしまえば、二度と戻ってこないかもしれない。
熱に浮かされ、弱った体で目を細める京の姿を見つめながら、律は看病に尽力し続けた。
だがその姿を、京は複雑な思いで見ていた。
律が夜を徹して水を替え、体を冷やし、栄養を与えようとする――その行為のひとつひとつは、確かに命を繋ぎとめてくれるものだった。
けれど同時に、京には恐怖を伴った。
(……なぜ、律さんはこんなことをするんだ?)
律が定めた屋敷の決まりでは、体調を崩そうとも放置されるのが常だった。弱った者は見捨てられる――それがこれまで徹底されていたはずだ。
しかし今、律はその「決まり」を破ってまで、自分を助けようとしている。
その事実が京を震え上がらせた。
絶対の支配の下に置かれ、規則を盾に動かされてきたはずが――その支配者は自分自身の感情で決まりをねじ曲げる。
ならば、この屋敷の中で自分の命がどう扱われるのか、どんな結末が待つのか、誰にもわからない。
もしかすれば、自分は本当にここで死ぬのかもしれない――。
心の奥に冷たい影が広がるのを感じながら、京は強く唇を噛んだ。
鈴も慎も、すでに律さんに取り込まれてしまった。外へ出ようという話をしても、もう二人はかつてのように手を取り合ってはくれない。
(……なら、俺が一人で行くしかない)
その決意が、弱りきった身体の中で静かに形を成した。
この屋敷を出なければ、自分は確実に壊れてしまう。
外の世界がどうであれ、死ぬのなら、せめて自分の意思で。
夜の帳の向こうに広がる未知の闇へと、京の視線は向けられていた。
――京の願いを叶えてやりたい。
――だが、私にはもう京しかいない。外になど出してしまえば、二度と戻ってこないかもしれない。
熱に浮かされ、弱った体で目を細める京の姿を見つめながら、律は看病に尽力し続けた。
だがその姿を、京は複雑な思いで見ていた。
律が夜を徹して水を替え、体を冷やし、栄養を与えようとする――その行為のひとつひとつは、確かに命を繋ぎとめてくれるものだった。
けれど同時に、京には恐怖を伴った。
(……なぜ、律さんはこんなことをするんだ?)
律が定めた屋敷の決まりでは、体調を崩そうとも放置されるのが常だった。弱った者は見捨てられる――それがこれまで徹底されていたはずだ。
しかし今、律はその「決まり」を破ってまで、自分を助けようとしている。
その事実が京を震え上がらせた。
絶対の支配の下に置かれ、規則を盾に動かされてきたはずが――その支配者は自分自身の感情で決まりをねじ曲げる。
ならば、この屋敷の中で自分の命がどう扱われるのか、どんな結末が待つのか、誰にもわからない。
もしかすれば、自分は本当にここで死ぬのかもしれない――。
心の奥に冷たい影が広がるのを感じながら、京は強く唇を噛んだ。
鈴も慎も、すでに律さんに取り込まれてしまった。外へ出ようという話をしても、もう二人はかつてのように手を取り合ってはくれない。
(……なら、俺が一人で行くしかない)
その決意が、弱りきった身体の中で静かに形を成した。
この屋敷を出なければ、自分は確実に壊れてしまう。
外の世界がどうであれ、死ぬのなら、せめて自分の意思で。
夜の帳の向こうに広がる未知の闇へと、京の視線は向けられていた。

