そう思った直後。

「もう、仕方が無いな。巫女、貸してみな」

ハスキーな剣道さんの声が、かっこよく響いた。

「ちょっと剣道、何をするんだ、止めないか」

俺は膝をついていて、おまけに背中の痛みもあってまるで状況が見えないが、ついに殿が自分に矢が向けられていることに気づいたようだ。

「危ないじゃないか」

「平気よ。殿の顔に傷なんてつけないから」

「そうか」

……何故そこでほっとする?!

本当に霊が憑いてるんですかね、この人に。


なんだかそこからして疑わしくなってきた。

それにしても、背中が痛い。鉄の匂いも強くなってきた、気がする。もしかして背中からも血がどくどくと流れているんだろうか。
はぁ……
なんだか、眩暈がしてきた。

俺は腕の中にデジイチを抱きしめた。
こいつだけは……、こいつだけは死守しなければ……。

遠のき始めた意識は、どさっという音で一瞬我に返る。

俺はその矢を胸に受けて、ぱたりと倒れた殿の姿を最後に、見た。

それにしてもこの人、倒れる姿もサマになってるんだなぁ、なんて場違いなことを思ったのを最後に、意識が遠ざかっていった。