ビルの最上階に着いた私は、そっと社長室のドアを開けた。
 電話越しのママはものすごく怒っていたけど、今はどうしているんだろう……?
 おそるおそる、ドアのすき間からこっそり部屋の中の様子をのぞきこもうとしたそのとき。

「待ってたわよ、奏」

 突然、低い声が頭の上から降ってきた。条件反射みたいに背筋がビクッとすくみ上がる。  
 こわごわと顔を上げると、ドアのすき間からパリッとしたスーツ姿のママが、仁王立ちでこっちを睨んでいた。

「マ、ママ。お待たせ……」
「遅い! 今までいったい何をしてたの⁉」

 ママの怒鳴り声が、ガラス張りの社長室に反響する。その声の鋭さに、私は思わず縮み上がった。
 私のママは、時間にとっても厳しい。
 それもそのはず。スパークルに所属するアイドルたちが通う学校、星宝(せいほう)学園の理事長だから!
 芸能界は時間厳守、遅刻は厳禁。目上の人から指示されたら即行動が当たり前の世界。
 だから、私みたいに、『早く来て』と言われたのに、到着がかなり遅くなってしまうと、ママはこんなふうに雷を落としてくるんだ。