私のピアノは、いつもお父様と一緒に奏でる。
 そして、世界を駆け抜けていく。

 私はお母様が作ったドレスを身に纏い、脚光を浴びる。
 いつもお父様とお母様とともに、舞台に立っているの。

 私のピアノの先生は、とにかく基本にうるさい。
 でも、そうしていると楽譜が語りかけてくる。
「僕はこんなつもりで曲を作ったんだ」って。

 だから私はこう言うの。
「私ならこう表現するのだけれどもなぁ」

 先生の教える音楽は、基本のその先にある、自由な世界。
 もっと自由に、もっと豊かに……楽しんで!

 お客様が私の音楽に酔いしれ、衣装に憧れる。
 その衣装を作っているのはお母様、コレット・ハイマー。

 この時代に服を「買う」ことを広めた人。
 人気ブランド「コレット・コレクション」を作ったの。

 お母様の服は大人気。私はそのモデルとして舞台に立つの。
 ハイマー商会を率いるお爺様やグランお兄様も、事業を後押ししてくれる。

 だからね、お父様。
 あなたが守ってくれたものを、今度は私が守ってみせる。
 だって私は、貿易都市を発展させた、偉大な父、カミルの娘ですもの。

 お母様、いつも苦悩の中に身を置いていたわね。
 でも、もう大丈夫――

 こうして私は舞台の上で、輝いているのですから――

 私はまだ知らなかった、あの時お父様が抱えていた苦悩を……
 私と一緒にピアノを奏でたら……安心しておやすみなさい。

 すべての始まりは、おじ様からお母様に宛てた一通の手紙だった。

 コレット・ハイマー殿
 弟のカミルより貴女との離婚の申し出があり、それを受理した。
 今後、婚姻関係を解消し、子の養育は貴女に任せる。
 二人の子については、今後ラタゴウの姓を名乗ることを禁ず。
  帝国歴236年7月18日
         領主 アルベルト・ラタゴウ

 ――これは、お父様とのお別れから、再起と復讐に懸けた、お母様と私の物語。