私が戸惑っていると、
彼はポケットからスマホを取り出し、
高速で文字を打ち込んで私に見せてきた。

私が挫折した”スマホ筆談”だ。

少年
(困らせてごめんね。)
(さっきのは手話で”お気になさらず”という意味です。)

手話はニュース番組の隅っこに
映っているのを見たことがあるだけで、
実際に見たのは初めてだった。

少年
(僕は難聴で、音がほとんど聞こえないんです。)
(だから手話やスマホの文字で会話してます。)
(あなたもですか?)

音が…?そうだったんだ…。
私はメモ帳で筆談を続けた。

歩侑(ふう)
(私は音は聞こえますが、人見知りで会話が苦手です…。)
(スマホに文字を打つのも遅いので、普段から筆談なんです。)
(手話の知識がなく、気づかなくてごめんなさい。)
(お礼を伝えられて嬉しいです。)

少年
(こちらこそ、お気遣いありがとうございます。)
(僕の名前は和泉 清凪(いずみ せな)、18歳です。)

あ…私より年上だったんだ。

清凪(せな)くんはスポーツマンらしい体格とは裏腹に
あどけない顔つきで、同い年か年下だと思っていた。

歩侑(ふう)
(私は手塚 歩侑(てづか ふう)、17歳です、よろしくね。)

こうして、思いがけず私に筆談友達ができた。