清凪(せな)
(今日でこの街での夏季合宿は終わり。明日帰ります。)

歩侑(ふう)
(あ…。)

すっかり忘れていた。
清凪(せな)くんはこの街の人じゃない。

彼は代表候補に選ばれて選考レースを戦っている、
『私とは違う世界』の住人だ。

このまま清凪(せな)くんと別れてしまったら、
彼と私との接点は…もう…。

歩侑(ふう)
(せめて連絡先だけでも…!)

そう思えば思うほど、
なぜか身体が動かなくなった。

歩侑(ふう)
(私、何してるの?彼、行っちゃうよ?)

試合中の応援で殻を破ったと思ったのに、
人前で話せない私に逆戻り。

それも、1番大事なところで。

歩侑(ふう)
「あ…あうぅ……。」



清凪(せな)
(それじゃあね。)

歩侑(ふう)
(あ…………。)

…………。

………。



私の意識が戻ったのは、
清凪(せな)くんの後ろ姿が見えなくなってからだった。

彼に抱いた気持ちが『恋』だと気づいたのは、
ずいぶん後になってからだった。