歩侑(ふう)
清凪(せな)くん…来た!」
「え…と…”応援”の手話は確か…こう!」

私は両手を握り、
旗を振るように左右にぶんぶんと動かした。

そして右手をパーに広げ、
親指を立てた左手の後ろから押し出した。

歩侑(ふう)
(がんばって!!)

すると、清凪(せな)くんは
私のぎこちない手話に気づいてくれた。

そして私に向かっておじぎしながら
右手の手刀で左手を叩いた。

それは清凪(せな)くんから教わった手話
『ありがとう』だった。

私は清凪(せな)くんに向かって右手を左右に2回振った。
「どういたしまして!」

歩侑(ふう)
「なんだか懐かしいな…。」
「初めて逢った日に、清凪(せな)くんが見せてくれた手話。」
「今度は私がやるなんて思わなかった。」

清凪(せな)くんと出逢った1週間前が
遠い過去のように感じた。

彼と出逢わなければ、私は手話を覚えることも
スポーツ観戦に来ることもなかっただろう。

きっと、今の私はすごく遠いところまで来ている。

人見知りに逃げていた今までの私に
打ち勝てそうなところまで。

ピー!

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