ナイショの妖精さん1

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――だいじょうぶ。きみの背中には羽がある――

 男の人は言った。

――その羽を、きみ自身が信じられなくなってしまったら、きみの羽は抜けてしまうだろう――

 あたしは涙をこぼして、しゃくりあげながら、その人を見あげた。

 あたしの手や足は、今よりもずっと短い。身長もすごく低いから、目の前にしゃがみこんだ男の人が、巨人みたいに大きく感じる。

 あたしが着ている紺色のスモックは、幼稚園のときの制服。頭にかぶっているのは、黄色いチューリップハット。

 男の人の大きな手が近づいてくる。小さなあたしの手のひらに、真珠みたいなアメが一粒、ころんと置かれる。

――羽があることをわすれないで。そうすれば、いつかきっと、きみは空を飛んでいけるから――


 空を……飛べるの……?

 あたしは、その人の琥珀(こはく)色の目をのぞきこんだ。

 宝石みたい。透きとおっていて、奥がじんわりあったかい。

 その人は、ほっぺたのしわを深くして、ほほえんだ。
 茶色い背広に、茶色い中折れ帽子をかぶってる。えりもとにはループタイ。パパよりも少しおじさんかな?

 本当に? あたしでも?

 こんな、へなちょこりんのあたしでも?

 だって、ママ、怒るんだよ? あたしがおねぼうさんだから。

 みんなは、おようふくのボタンとめられるのに、あたしだけ、とめらんないの。

 おゆうぎもね、あたしだけへたっぴなの。

 だからね、あたしは、ひとりぼっち。

 みんなといっしょに、お山に来てたんだけど。みんな、あたしなんかいらないって、どっかに消えちゃったんだ。

――綾ちゃん、耳をすませてごらん。先生の声がきこえるよ。綾ちゃんを心配して、さがしているよ。時期が来れば、きみはかならず、おじさんの言葉の意味に気づくはず。それまでは信じることをやめないで――

 おじさんの胸や肩に、無数の銀色の羽がとまっている。

 トンボの羽のある小さな女の子や男の子が、身を休めてる――。


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