ナイショの妖精さん1


 つっと、右手首の上をトンボの羽が横ぎった。

「あっ!」

 あたしはとっさに、中条の手をふりほどいた。

「妖精っ!」

 声に出してから、「しまった」って思った。

 どうしよう……。

 この人、性格悪いから、クラス中に言いふらすに決まってる。
 あたし、アホっ子でドンくさいの上に、「妖精を信じてるイタイ子」のレッテルまで貼られちゃう。

 だけど、じゃあ、目の前にいるコレはなに?

 赤紫色の花の先に、ツツジの雌しべみたいな足をのせて。バレリーナみたいな白いふんわり衣装をまとった小さな人。

 歳はあたしと同じくらいかな。金髪を頭の上でくるりとまとめて。綿毛の髪飾りをつけて。青いつりあがり型の寄り目。つんとした鼻。小さなピンクのくちびる。

 銀色のトンボの羽が、背中でパタパタとはばたいている。

 現実……?

 あたしは、そっと小さな人のほうに、人さし指をのばした。

 さわれたら、現実……だよね?