ナイショの妖精さん1

 たぶん、小さいころに見た夢。
 だけど、セリフまでぜんぶ覚えてる夢なんて、ほかにない。

 だからあたしは信じてる。

 あたしは妖精の子。

 いつか、こんな生きづらい世界から抜け出して、妖精の世界に帰るんだっ!



「おい、和泉っ!! 」

 低い声に呼ばれて、ハッとふり返った。

 いつの間にか、二十メートルくらい、花畑を進んでた。

 登山道のところで、木の幹に片手をついて、中条がこっちを見ている。
 琥珀(こはく)色の目と、目が合う。







 ……あの目……っ!

 胸の奥で、なにかがカチッとつながった。

 さっきまで声しか覚えていなかった夢の中の人に、パズルのピースみたいに、琥珀色の目があてはまる。

 だけどすぐに、あたしの頭は「?」マークでいっぱいになった。

「あ、あれ? なんで? あたし、なにが? え……中条……?」

 ジーンズをはいた長い足が、ズカズカ花畑に入ってくる。

「うわっ !? なんだこれ? イタっ!」

 ぶつぶつぼやきながら、豪快(ごうかい)に花を踏んでくる。

 と思ったときにはもう、中条は目の前にいて、足元の花をにらんでいた目が、キッとあがって、こっちを見た。

「和泉っ!! こんなとこで、なにやってんだっ! おまえが迷子になったら、怒られるのは班長のオレなんだぞっ!」