船瀬さんの彼女、村井さん。





今目の前に居る本当の私は、村井さんが乗り移っているのだろうか。可能性はゼロではない。船瀬さんとキスしてしまった罪滅ぼしのつもりで仕事を手伝おうとしたけど、ご飯に行くことを知られていた。


決まったの今日なのに、もう知ってる。

本当に乗り移っている気がしてきて、怖くて返せる言葉がない。




「知ってたんだ…」


「さっき船瀬さんと話してたら、聞いたの。残業はできないって言われたから、そうなのかなって」


「あ、そういうこと…」




私が嘘をついているから、全部が嘘に思える。


でもここは有り難く、すんなりと退社させてもらおう。




「ありがとう。じゃあ、お先に帰るね」


「うん、お疲れ様」


「お疲れ様…」




何ともスッキリしない感情で、まだ残って仕事をしている人に挨拶をして、オフィスを出た。


エレベーターを待つ間、これからのことを考える。船瀬さんに言うべきか、先に押谷に言うべきか。



船瀬さんに、私は村井さんではないと言ったら。今からのデートは取りやめて、全部話したほうが良い?押谷に打ち明けて、押谷の体に居るのは村井さんなのか聞いたら。そして戻れる方法があるなら、協力してもらう?



どちらも信じてもらえなかったら、プレゼンが選ばれなくて発狂した、可哀想な同期だと思われて終わる。