船瀬さんの彼女、村井さん。




給湯室から戻る前、船瀬さんにキスされた。


好きな人にキスされたのは嬉しい。でも、船瀬さんは村井さんだと思ってキスをしている。私は村井さんじゃなくて、押谷なのに。

そんなことを言っても信じてもらえないし、自分自身で理解しきれていない時に、話す気にもなれない。



少し触れられただけなのに、体は硬直して罪悪感が残った。


船瀬さんと時間をずらしてデスクに戻ると、本当の私はプロジェクトのことで頭がいっぱいで、私が給湯室に行っていたことも気づかないくらい、集中している。



「私に戻りたい…」



船瀬さんと村井さんが付き合っていることは知っていたし、羨ましいとも思った。その思いが叶っても、今は嬉しいとは思わない。自分の体が良い。



デスクに戻ってからは、村井さんの体に乗り移ってしまったことを仕方なく受け入れ、散らばった資料を処理して片付けた。


時々本当の私のプロジェクトを手伝いながら、自分の仕事も処理し終え、終業時間の17時30分には、手持ち無沙汰に。




「押谷、さん…。何か私に手伝えることがあったら、言ってね。私、今手持ち無沙汰だから」


「ありがとう!でも今日…、船瀬さんとデートでしょ?私は大丈夫だから、デート楽しんできて」