既読がつくも返事はなく、待っていると突然給湯室に船瀬さんが顔を出した。
「大丈夫?具合悪い?」
「ううん」
「そう?プレゼン、俺もだけど選ばれなかったの、余程悔しかったのかなと思ってさ」
「うん。悔しいけど…、押谷さん、のプレゼン、飛び抜けてすごかったから」
「ほんとそれだよな。俺も頑張らないと」
励ましに来てくれたらしい船瀬さんに、自分の名前にさんを付けて返した。
何か、気持ち悪い。自分の名前をかしこまって口にして、飛び抜けてすごいなんて、自分を褒めて。
「今日、時間ある?」
「あるけど、どうして?」
「一緒に飯食いに行きたいなと思って。プレゼンお疲れ会も兼ねて」
「うん」
「じゃあ、エントランスに18時集合な」
手を振られたので私も振り返すと、去っていくのかと思いきや近づいてきて、私の頭に船瀬さんの細く大きな手が乗り、唇が軽く重なった。
触れただけですぐに離れると、固まる私に笑顔を向けて今度こそ去っていく。
心臓が止まるかと思った。言い方は悪いけど、彼女持ちの船瀬さんと不倫している気分。
キスされて止めていた息を吐き出して、今の流れを復習する。
「職場でキスとか、あり得ん…」
嬉しいはずなのに村井さんに対しての後ろめたさが勝って、もし自分の体に戻れた時、村井さんはこのキスのことは覚えているのか、私が村井さんに乗り移ったせいで、私と村井さんの仲が壊れないか、怖くなった。



