「恐縮です」
「どういたしまして」
どうにか切り抜けられた。まさかのピンチだったけど。
何を食べようか決まっていなくて、もみじの食べたいものと言われたけど、村井さんの好みなんて把握してないし、みんな大好きであろうイタリアンにした。
「良いね。ピザ食べたかった」
「じゃあイタリアン行こっ。この辺だったら、駅前とかかな?」
携帯で調べると、ちょうど駅前に創作イタリアンのお店があったので、そこに決めた。
いつどこで私が押谷だとバレるのか、ハラハラしながら船瀬さんの隣を歩き、言動にも気をつけながら村井さんのフリをするのは、疲れる。
お店に入って食べていても、この食べ方は村井さんならしないかなとか考えるし、好き嫌いもあるかも。でも、そんなことを言い出したらご飯も味わえないし、一回諦めてとにかく楽しむことにした。
「美味かったな」
「うん。久しぶりにイタリアン食べたけど、美味しかった」
「次、もみじが行きたいとこある?ないなら、俺ん家来る?」
「俺ん家…」
船瀬さんの家。お邪魔したこともない、彼女の特権。村井さんは何回も行っているのかな。だとしたら、特に抵抗もなく行くよね。
うんと頷けば、さらに村井さんを裏切ることになると、想像しただけで冷や汗が出るけど、まだ誰にも私が押谷だとバレていない。
いつ入れ替わりが戻るかも分からない今、頷かなかった時の後悔はしたくないと思い、首を縦に振った。



