「もみじ?」
「…」
「ちょっともみじ、大丈夫?」
彼女の村井さんの気持ちを考えながら歩いていたら、船瀬さんの言葉を聞き逃していた。
肩に手を置かれて船瀬さんの方を向くと、〝もみじ〟と目を見て呼ばれた。
もみじ…?
そうか。村井さんの下の名前、もみじだった。村井さん、会社の外では船瀬さんに下の名前で呼ばれるんだ。良いな。
「もみじ?」
「…あ、ごめん。考え事してた」
「今日、おかしいよ。プレゼン、ショックなのは分かるけど。選ばれたの私だとか言うし、さっきもエレベーターのボタン押してて最後に降りて来たし」
「エレベーター?どういうこと?」
「いつもエレベーター乗っても、ボタンのところに立たないじゃん。降りる時だって、どこに居ても一番に降りようとするし」
「それは……。たまたまだよ!」
え、村井さんってそんなに図々しいの?ボタンのところには立たなくても、一番に降りるのはさすがに。
まさかそんな性格をしていたとは、全く知らなくて、咄嗟の言い訳も見つからなかった。
「…まぁ、今日一日大変だったけど。何か、押谷さんみたいなことするじゃん」
変な声が出そうになった。
押谷さんみたいなことするじゃんって、私が押谷だもん。まぁそんなことは船瀬さんには言えないんだけど。
笑って誤魔化すと、〝美味しいもん食べて切り替えよう〟と肩を組まれた。



