出迎えに来ていた濃紺の官服の麗人に手を差し伸ばされ、その手をしっかりと握る美しい女性の姿が目撃されると「親衛隊長がどこぞの女人の手を」と瞬く間に話が広がる。
「琳華」
手は握っているが中々出て来ない琳華に偉明は輿の中を覗き込んだ。
「いつもの威勢はどうした」
「やっぱり駄目です……皇子様とお茶など畏れ多くて」
「昨日まで楽しみにしていたではないか」
偉明の手で軽く外へと引きずり出される琳華は侍女、梢によって最大限に着飾られていた。それは宮殿側、皇子からの注文と言うことで本当にどこぞの領地の姫君のような姿をしている。
明るい日差しの下に降り立つ妻の美しさたるや。
光り輝く玉のような琳華の髪には偉明があの日に贈った紅玉の髪飾り。唇を彩る紅は彼女の母親が贈ったものではなく、新たに偉明がこの日のために選んだものが塗られていた。
「琳華、行こう」
この人はいつまで手を握っているつもりなのだろうか、と恥ずかしさに頬がお化粧よりも色づいてしまいそうになるが絢爛豪華な後宮の楼閣や宮を望む瞳は爛々と輝き、唇は小さく開く。
「周琳華、ここに極まれり……かしら?」
全てはこの後宮から始まった。
彼女の小さな呟きに偉明は「何か言ったか?」と問うがすらりと姿勢を正した美しき女傑はにっこりと笑顔を浮かべて首を横に振る。
「晴れの日に芋を引くようでは旦那様の妻ではありません。何事にも胸を張って強くあれ、とここで学びましたから」
「お前の場合は生まれ育ちが特殊……まあ、そう言うことにしておこうか」
「あら、それを手取り足取り教えて下さったのはどちらの殿方で」
「っ、な……待て、琳華。他の者に誤解を」
裳裾を揺らし、おかしそうに笑っている琳華は再び後宮へ――東宮へと向かう。正式に二人が婚姻を結ぶと言う目出度い報告を待ち望む皇子も正室に迎えたい思い人がいると言う言葉を発して若き夫妻を驚愕させたのはまた、別のお話。
おしまい。
