『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』



 「雁風の幼馴染が医女でな……劉愛霖を診たのも彼女なのだが体は相当、あの粉末香に蝕まれている」
 「わたくしが初めてお話をした時にお加減が悪かったのも」
 「そのせいだろう。そしてあの香は人を惹きつけ、依存させる」
 「では愛霖様はその香を身に沁み込ませ……だからいつも甘い香りが」

 頷く偉明に琳華の視線も下がってしまう。
 そこまでして、彼女は後宮に入りたかった。そして宗駿皇子に取り入ろうとした。彼女は劉家の家長の娘ではあるが、母親は正妻でも正式な側室でもない。そして劉家にはついぞ子供が生まれず、外で育っていた愛霖は引き取られて何かしらの重圧があったとしたら。

 「憶測で物を語るな、と父は言います」
 「そうだな」
 「ですがそれを承知で言うのは」

 琳華は少し、梢を気遣うように言葉を選ぶ。

 「困っている方の全てを助けられるわけではないとわたくしも承知しています……わたくしの手なんて、小梢ひとりすら……でも、それもまた身分による驕りなのだと考えてしまえば延々と悩んでしまいます」
 「ああ、ご息女は世の流れに抗う心があるのだな」
 「はい、だからこそ今を一生懸命に……それにわたくしたちは一筋縄ではいかない周家の娘です。ね、小梢」

 絽家、梢も一家離散の不遇な下級貴族の娘だった。普段は元気に振る舞っているがその内心を琳華は深く覗く事はしなかった。
 梢が何を思い、考え、ついて来てくれているのか。朗らかな、鈴を転がすような声で「お嬢様」と呼ばれるのは嬉しい。
 だからこそ、二人だけで盃を交わした。琳華は梢の行く末に責任を持つ。未だ厳しい階級社会の中でも不自由が無いよう、読み書きや礼儀作法も全て、自分と同じ事を学ばせた。それを父は、周家の家長は良しとしたのだ。
 もし愛霖も周家に来ていたなら彼女は違う運命を……。

 「わたくしたち女人は誰かの捨て駒などではありません。愛霖様もきっと……最後まで抗っていた、と勝手に思う事にいたします」
 「そうだな……今は、まだ」

 ままならぬ世を憂いながらも琳華は梢に向き直ると「今回の件、小梢にもとても助けられたからわたくしからも何か贈らせて」と笑いかける。

 「うぐぅ、おじょうさまぁ~」

 琳華の気高い優しさに梢は瞳をうるうると潤ませる。

 「髪紐とお菓子と、あとは何にしようかしら」
 「ならば私も付き合おう」

 琳華の提案に乗ってくれる偉明。その後三人はもう品物も残り少なくなっていたが夜市の店をゆっくりと見て回った。