夜市の雰囲気に圧倒されていた琳華の歩みが少し遅くなる。
ゴネてはいたが、行くともなれば梢の慰労も兼ねて何か髪飾りや手巾など買ってあげようと思っていたのだが……宗駿皇子と一緒ならそう選んでもいられない。
(また後日、家に帰って日を置いてから小梢には)
煌びやかな装身具が松明に光っている。
艶やかな玉石の指輪や光沢のある織りの布。細工の美しい小箱や紅入れ、細筆、刺繍用の糸も売っている。
どうやら下級の宮女の給金でも少し貯めれば買えるような価格帯の物は既に出払っているようで残っているのは女官たちでも頑張らないと、と言うような言わばその店でも売れても売れなくても良い看板商品たち。最終夜はどういった品揃えをしているかを見せているようだった。
確かに、皇后付きや側室付きの女官などの目に留まれば買い上げも無くはない。今後も後宮に呼ばれて出入りが出来るかもしれない商戦の場でもあり、どの店も自慢の一品を並べている。琳華も上級貴族の娘。普段あまり関心はなくとも質の良い品については目利きであった。
そんな彼女の目に留まる赤みの強い、今夜の彼女の唇を彩る紅と同じ大玉の紅玉の付いた髪飾りがひとつ。
「そちらの御方、もしやどこぞの御国の公主様で?」
琳華の視線に目聡く気がついた商売人が調子の良い言葉を投げかける。確かに、今の琳華なら外交で滞在している他の国の姫と言っても差し支えは無い佇まいをしていた。ふ、と思わず吹き出している偉明に見えないようにむ、とする琳華だったが皇子も足を止めてその露天の台を覗き込み始める。
「い、いえ……そんな大層な……」
謙遜と否定の言葉を言い掛けたが今、その台を覗き込んでいる兵に扮している尊い人物の正室候補(仮)なのだと思い直した琳華はすっ、と姿勢を正す。
「わたくしは今回の秀女選抜における筆頭秀女にございます」
「秀女……ああ、皇子様のお妃様候補の!!いやあ、なんてお美しい!!」
その皇子様は今、しげしげと商品を眺めながら店主の言葉に笑っている。既に琳華は周家から出向された仮初めの秀女だと言うのを皇子は知っており……皇子は少し身を引き、雁風を目配せだけで呼ぶ。
「縁と言うものは不思議だと思いませんか、偉明隊長。雁風殿、我々はひと巡りをしたら“大人しく”仕事に戻りますゆえ」
さらりと言って立ち去ろうとする皇子に珍しく慌てたのは偉明で、雁風も「そうしゅ」まで声が出たが思い切り飲み込んだ。
いくら事前に確認が取れていても外部の者が多い場所。兵に扮しているとは言え皇子を雁風だけでうろつかせるのはなかなかの大事である。
