『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』



 「だって、琳華様は……周琳華様は、秀女の中で一番……お家柄だって、試験などいらないくらい……でも、本当に、読み書きも出来て、優秀な方で……わたくしが持ってないものを、全部……っ」

 だとしても、だ。伯丹辰も、その取り巻きたちも家柄は良いし皆が一様に優れた面を持っている。愛霖だって、その筈だ。

 「伯丹辰様が琳華様からお菓子を貰った、と得意げに皆に自慢して回って……それが、悔しくて。琳華様に一番に声を掛けて貰ったのは、わたくしなのに」
 「あ、愛霖様……?」
 「きっと正室になるのは琳華様だって丹辰様が言いふらして、下女たちも皆が琳華様のお噂をして……だから丹辰様は絶対に自分はその次になるんだ、ってうるさくて……琳華様は筆頭としてお忙しく、寄宿楼を空けている間にも丹辰様はずっと……琳華様は、わたくしの憧れなのに、おそばにいるのはわたくしの方が絶対に」

 琳華は膝の上に重ねていた指先をぎゅっと握り込む。
 誰かに助けを求めたくなる。部屋から出れば宮正と偉明がいてくれている。けれど、これは……。

 「愛霖様、人の心というものは」
 「分かってる!!」

 卓を叩き、声を荒げた愛霖に本当に身じろぎをしてしまった琳華だったがすぐに部屋の扉を蹴破るように宮正が入って来て愛霖を牽制し、次いで入室した偉明は琳華を椅子から立たせ、守るように立ちはだかる。

 「ご息女、もう良い。話なら聞いていた」
 「ですが」

 振り向いた偉明は「まだ引かない」の琳華の瞳を見てしまう。

 「愛霖様、これらは全て愛霖様の独断での行いだったのですよね」
 「そうよ……」
 「誰かに強要されて」
 「違う……そんな、こと」
 「本当に誰からも」
 「もう良い!!もう、いいの……誰も、もう……わたくし、に……あたしにかまわないで……こんな惨めな人生なんてもう」

 髪を振り乱した愛霖を拘束する宮正に偉明は渋い顔を見せる。

 「本当に、わたくしは愛霖様を良き友人だと思っていました」
 「え……あ、」
 「香嚢を頂けて、本当に嬉しかったのです。頂いてからはずっと衝立に掛けていて、着替える時に香る柑橘の華やかな香りに愛霖様がわたくしのことを考えてくださったのだと毎日、心強く思えていました」
 「あ、ああ……」

 宮正二人掛かりの拘束により、崩れ切らない愛霖の華奢な体。

 「隊長、診断結果が」

 騒ぎに駆けつけた雁風は「やはり衰弱著しい、と。毒を制する為に随分と無理をしていたようで」と伝える。
 今の愛霖は疲れも加わっているがやはり、初めて会った時と同じように青白い。

 「皆も聞いたか。劉愛霖は独断で宗駿様を(たぶら)かそうとした。これは反逆の罪にあたる。そして名門たる周家をも巻き込み、その娘にもあらぬ疑いをもたらし、厳粛なる秀女選抜の場も乱した」

 偉明の口上は「非常に厳しい処遇が待つだろう」と締めくくられる。実際に量刑を言い渡すのは刑部であるが、若き彼がこの後宮内でどれだけの権限を持っているのかを物語っていた。