宮正によって通された部屋の中で愛霖は俯き、座っていた。
扉のすぐ後ろに宮正は控えているようだったが小声で話をすれば聞こえない程度。
「琳華様……」
入室をした琳華を目だけで見上げた愛霖の憔悴しきった瞳と弱々しい声。
ずっと椅子に座っていたのか立つのもままならないような愛霖の姿に琳華は勝手に正面にある椅子を引き、座る。
「申し訳ありませんでした……本当に、申し訳が……」
刑部が自分との接見を許した原因が分かったような気がした。多分、愛霖は『重要な部分について何も答えていない』のだろう。
「全て、わたくしが……勝手に、したこと……琳華様にまでご迷惑が及ぶな、ど」
そこにあったのは可愛らしい品のある女性の姿ではなかった。青白く、何かに怯え、ただひたすらに謝ることしか出来ないでいる小柄な女性の姿。琳華を見ることすらもう出来ず、俯きながら「申し訳ありません」と謝罪の言葉を繰り返す愛霖は出された膳にも手を付けていないのか、そのまま置いてあっても傷みにくい乾物と一杯の水にも口を付けていないようだった。
「愛霖様から頂いた香嚢はどうやら完全に没収されてしまったようで……あの柑橘の配合、教えて下さらないかしら。もちろん、安全な範囲で」
「え……あ、そんな」
「愛霖様の香の知識、薬学の本をお読みになって得られたのですか?わたくしはどちらかと言うと兄たちと野山を駆けまわって得た知識しか持ち合わせておりませんから調香をしてもどうにも香りに雑さが出てしまって不評を買うのです」
だから調合された香はお店に買いに行っていると言う琳華に愛霖は眉を寄せ、今にも泣きそうになる感情を堪えているようだった。
「……わ、た、くし、は……罪人です。皇子様を禁制の粉末香で惑わせ、傀儡に、し……取り入ろうとしました。あの、琳華様にお渡しした香嚢の中にも、同じ物が、混ざって……周家のお姫様を、手中に納めて、操ってしまおうとしました」
愛霖の言葉は重く、琳華からの対話の糸口になるような質問の回答にもなっていない。
「小手先でチョロまかしたような言葉では駄目なようね」
ご無礼を、と琳華は真っ直ぐに愛霖の伏した瞳を見る。
「わたくしのさじ加減で愛霖様の処遇が決まるようです」
「ですが、そんな」
「愛霖様がしてしまったこと、しようとしたことについては然るべき処分が必要だと思います。ですが何故、わたくしにまで同じことをなさったのですか?愛霖様が香嚢を下さったのはわたくしが筆頭になる前、それにわたくしなど本来ならば蹴落とすべき存在……」
宗駿皇子からの寵愛を賜るべく、そう仕向けようとした愛霖。
それを琳華にも使った意味が今の回答である「手中に納めて操ってしまおうとした」ではどうにも腑に落ちなかった。愛霖とは普通に接していたつもりだし、何なら丹辰などより贔屓をしてしまっていた部分もある。
初めて話し掛けた時に具合が悪かった印象が強く、小柄な愛霖が梢の背と重なったからずっと気になっていて。
「本当、は……琳華さ、まと……仲良く、なりたかった……」
「わたくしと?」
もう仲が良かったように思っていたのは自分だけだったのだろうか、と琳華は訝しげな表情になりそうだったのだがそれを抑えて愛霖の“本当の”言葉を聞く。
