既に話が通っているようで先に立った雁風が宮正に断りを入れるとすぐに琳華と偉明に入室の許可が下りた。
「小梢殿は私とここで留守番を預かりましょう」
琳華が少し心配したように振り向いた事に気がついた雁風が気の利いた言葉をはっきりと楼の中へゆく二人に聞こえるように言う。それなら安心だ、と琳華は偉明に付き添われるようにして劉愛霖がいると言う部屋へと向かった。
その僅かな道すがらに偉明は「劉家は、あの娘の事などどうでも良かったのかもしれんな」と呟くように言う。
なぜ、と視線だけを向ける琳華はまた緊張した面持ちになっていた。
「どんな手を使ってでも朱王家に取り入ろうとした。しかし手の内が露見した今、彼女の養父は知らぬ存ぜぬを突き通している。今までもそうやって掻い潜って来た。聴取をした下男も主人ではなく娘に頼まれて禁制品の粉香を仕入れた、と言っている。だからこれは全て娘の独断であり、もとより彼らはあの娘を」
「……捨て駒にするつもりだった」
足を止めてしまった琳華に偉明は目をきつく細める。
周家の直系の娘たるもの、と日頃から色々な感情を押し殺していることくらい分かっていた。彼女の持つ侍女もまた、元は下級ながらも貴族の子女。訳あって、運よく周家にやって来た。
「周琳華、大役を頼めるか」
名を呼ばれた琳華は二人の宮正が立つ扉の向こうを見る。
「この接見ひとつで劉愛霖の全ての処遇が決まると言って良い。ご息女の進言には力がある」
私はここまでだ、と偉明は足を止めた場所で琳華を見送る事を決めたようで濃紺の長羽織を翻すように廊下の端に体を除け、次に薄桃色の衣裳が揺れた。
「行って参ります」
「ああ、武運を」
音も無く、上等な薄桃色と簡素に結われ、流されている琳華の長い髪が揺れる。緊張と不安で強張る身だとしても振り返る事をしないその細くも真っ直ぐな背を偉明はじっと見つめていた。
