『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』



 とりあえず梢は琳華の身支度を手伝い、このあとどうするかを聞く。時刻は既に昼を回っていて、後宮内での自分に残されている時間はごく限られている。

 「小梢、なるべく日のある内に接見出来るかどうかを」
 「承知致しました」

 それを王宮殿、後宮が望んでいるのなら。
 何も出来なかった自分が最後に何かを為せるのなら。
 一応、まだ秀女としてある自分の白い衣裳の上に薄桃色の羽織を着こむ。顔を丁寧に洗い、化粧は薄く。
 身支度の最後、琳華は自らの手で白い組紐飾りを提げる。

 (これが最後、かしらね)

 いつでも案内を受けても良いように椅子に座り、待っていた琳華とその合間にも帰り支度をしていた梢。本当は自分も手伝いたいくらいではあるがじっと我慢をする。二度ほど梢が外に控えてくれている宮女とやり取りをした後、三度目に呼ばれた時には警備兵では無く……偉明と雁風が迎えに来てくれていた。
 刑部の兵かと思いきや意外なような、意外ではないような。

 部屋に踏み込んだ偉明は官給品の衣裳だけで別の物は羽織っていなかった。

 「宗駿様からのご命令により嫌疑のある者は刑部、秀女たちについては引き続き親衛隊に、とのことで我々がお連れ致しますゆえ……ご息女、よく眠れたか?」

 途中までは澄ました口上だった偉明だったが結局は琳華にとっては親しみのある口調に変わる。

 「このお部屋を手配してくださったのは……」
 「宗駿様だ。周家のご息女が謀略を起こすようなチンケな娘ではない、とお話しをされてな」
 「チ……?!あの、こちらを。手入れをしておらず、申し訳ないのですが」

 本当にその言葉、皇子が言ったのだろうか。
 それとも偉明による冗談だったのか。しかしそのお陰か、慌てて衣桁から偉明の長羽織を下ろして手渡す琳華の気配が少し変わる。受け取った偉明はそのままそれを着こみ――偉明も琳華も二人ともが初めて会った時の衣裳になる。

 「ご息女、聞き出して欲しい事が一つだけある」

 す、と一歩を踏み出した偉明が琳華に小さく耳打ちをした。それは梢にも聞こえない低く、密やかな声。それに対し、琳華も小さく頷いて宮から出る。偉明を先頭に一行が歩き出して暫く、どこをどう歩いたのかも分からなかったが王宮殿の敷地の中でも随分と辺鄙な場所だと言うのは分かった。手入れはされているがそれまでであり、人の気配もない。
 何より、宿泊していた寄宿楼ですらぱたぱたと下女が行き交っていたのに琳華たちが辿り着いたのは古い楼で、警備の為に周囲を宮正と思しき女性たちが立ち番をしているだけだった。
 そんな場所で偉明のような涼やかな美貌の男と侍女を従えた秀女、琳華の姿はよく目立つ。