『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』



 女官に通された部屋は秀女たちが集う寄宿楼の個室よりも、周家の屋敷の私室よりも幾つも格上な豪華な部屋だった。まるでそこはお姫様が使うような部屋。調度品の意匠もあの布団部屋に下賜されたとても上等な品と変わりない。
 目を丸くさせている琳華に後ろからついて入って来た琳華の父親は「お前たちはお母さんに連絡を。私も一度、屋敷に戻るつもりだと伝えてくれ」と息子二人に伝える。

 「あ、あの、私は廊下にいますので」

 ひとしきり琳華に撫でて貰った梢はおずおずと申し出るが「お前もいると良い。ああ、そうだ。どうやら茶も三人分届いてしまった」と女官の後ろから給仕に来てくれた別の……やはり普通ならば給仕など行わないような立場の女性が膳を用意しに来る。出されてしまえば、言われてしまえば梢はそれに従うしかない。

 琳華の父親を上座に次に琳華、梢の格の順で卓につくが出された茶器は全て同じ格の美しい物。幾ら上級貴族の使用人とは言え、泣き腫らした目が今度は泳いでしまっている梢だがどうやら王宮殿側としてはあくまでも客人の一人として扱ってくれているようだ。
 恐縮しきりで小さくなっている梢を隣に琳華は父親を見据える。

 「父上、今回の件ですが」
 「今日を含めて二日。明日の夕方には家に帰す」
 「……承知いたしました」
 「反論はないのか?」
 「言いたいことは山ほどありますが……それを語り尽くせるほどの饒舌な舌を持っていません。たとえ今回の事が仮初めの行いだったとしても、秀女としてどうあるべきかずっと考えて行動をしていましたから」

 でも、自分は何もなしえていない。
 そう暗に伝える琳華の想いを汲めない父親ではないが「お前のその高潔さが私の誇りだ」と言う。末娘に対する一番の褒め言葉に琳華は帯に挿したままでいた通行証代わりの美しい組紐飾りを引き抜いてそっと卓の上に置く。

 「この飾りを賜ったことは、確かに……それだけは」

 偉明がこれを渡してくれた時、なんとも言い難い気持ちになった。嬉しかったし、どうしてだろうか恥ずかしくもあった。父親や兄たちから贈り物は貰うが本当にそれだけで。

 「ああ、その偉明からの言伝だが組紐はまだ持っていて良いそうだ。持ち帰っても良い、と」
 「父上……」
 「なんだ」
 「その、えい……親衛隊長様とはどういったご縁が」
 「上司と部下だった。文武両道、器用な者だと関心していたんだがまさか大出世するとはな。年齢と仕えた年数はともかく、お父さんの方が階級的には下になる」

 そうだったんだ、と琳華は思うが偉明のあの様子はまるで師弟関係のように濃く感じる。一体、この父親は彼に何を教えたんだろうか。
 ふ、と琳華の口もとが緩む。ずっと唇を引き、緊張をしていた頬が痛い。おしろいもとれてしまっているような状態だ。今更、と琳華は自分の頬に手を当ててむにむにと指先でほぐす。

 いつもの娘に戻って行く様子を見ていた父親は「さあ、茶を頂こう。お父さんもなかなか頂けない貴重なお茶だ」と言うがつまりこのお茶は――とても尊い方々に出されるもの。

 「何事も経験だぞ」

 梢は大丈夫だろうか、と隣に視線を向けた琳華だったが茶器を見つめて固まっていた。