「ようこそおいで下さいました。御達しの通りに手筈は整っております」
早朝にも関わらず女官としては最高位の衣裳を纏った年配の、自分の母親よりも明らかに年上に見える女性が周家一行をとある場所で出迎える。
どこに属しているか、大体が帯や装飾品で分かるのだがこの女官は――東宮の女官だ。東宮は皇子が住まう場所。ほとんどが高官の女性しか出入りをしていない場所で琳華もそこに属する女官は数えられる程度しか見たことがない。
「御疲れでしょう」
通された部屋は入り口の扉からして通常とは異なっていた。
まだ夜も明けたばかりの朝とも言えない薄暗い中、その部屋だけは煌々と明かりが灯されている。
途端に部屋の奥からぱたた、と小さな足音がして扉が開く。女官は「あらあら」と優しく笑ってくれているが部屋の中から子猫のように飛び出して来たのは今にも泣きそうな表情をした梢だった。
「お嬢様!!」
飛びつきそうになるのを堪える梢に気づいた琳華は片腕を伸ばす。
たまらず飛びつく小柄な梢を抱き締める琳華は「無事で良かった」と心からの思いを伝えた。
「もう、どうなることか……絽梢は、お嬢様を御守りすることが使命だと肝に刻んでっ」
家長を差し置いている梢だが、その家長本人は何も気にせず、うんうんと深く頷いている。そうやって梢にも人として適切な教育をし、周家の教えを覚えさせた。
「う゛ええ……ふええ」
言葉にならない感情をどう表そうか、変な鳴き声になっている梢だが琳華は偉明の羽織を掛けていない方の手で小さくもしっかりとした背中を撫でる。
「お嬢様ぁ~旦那様ぁ~」
部屋の奥から周家の次兄も出て来て、息子二人と娘、そして娘同然の四人が父親の前に出揃う。
「名門である周家の皆様がお揃いになる場にいられるとは女官冥利に尽きますね。奥方様とも昔、少しばかり部署が同じで……ああ、懐かしい。珍しい跳ねっ返りで、でも真っ直ぐな女性で……ふふ。似てらっしゃる、かしら?」
引っ付いている梢の背を撫でる琳華に向けられる慈愛ともとれる女官の眼差し。なんだか恥ずかしくなってしまった琳華は小さく「ありがとうございます」と礼を言う。
「さあ、お入りになって」
