『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』



 お茶と甘い物でひと息ついた二人は周家の屋敷に帰る。
 帰れば梢は洗濯物を取りこんだり夕飯の支度をしなくてはならないので琳華は一人、買い込んできた荷物の包みを部屋で開き始めた。
 これは自分の、これは梢の、と板張りの床にそれぞれ分ける。

 そして琳華は簪などの装身具が入った木製の小箱も持ってきて、梢に贈る為の物を選び始めると簪を一本、手に取る。
 その簪には濃い桃色の丸い小さな石がはまっており、銀の部分には繊細な彫り物がしてある可憐なもの。梢に贈るにはぴったりだ。

 「琳華」

 部屋の中、板の間に買って来た物や梢に着させるお下がりの羽織などを広げていた琳華に開けっ放しにしていた出入り口から声が掛かる。

 「母上?!」
 「入りますよ」
 「あ、あの、これはですね」

 広げ放題の散らかし放題になっている衣裳をちら、と見る母親にバツが悪そうに少し肩を小さくさせる琳華だったが小言はなく「支度は進んでいるようね」とだけ言われて静かに胸を撫で下ろす。
 この琳華の母親は特別、厳しい人だった。むしろ小さな頃から子猫のように跳ねまわっていた琳華は嫌われているのかも、とさえ思ったことがあるくらい厳しく躾けられた。
 親と子は違う、性格が合わないのなら致し方ない。そう次兄に諭されてからは母と娘の距離感を何となく少し広めに保っていた。
 それに母親は梢の方を……家が没落し、離散の為にやってきた女の子を実の娘以上に可愛がっているように見えた。
 でも梢は本当に可愛くて素直で頭も良かったのだ。

 「あの人の思いつきに振り回される必要はないのですよ」
 「ですが母上」

 母親はそんなことを言う人だったろうか。

 「琳華、よく聞きなさい。後宮は華やかな女の園などではなく、薄暗く湿気た魔窟の面の方が多いわ」
 「それは兄上たちから聞いてある程度は」
 「いいえ、あの子たちの伝聞以上です。まあそれはわたくしが入宮していた時代があまりにも苛烈な時代であっただけかもしれないけれど」
 「母上は確か書庫の管理などをされて」
 「ええ。部署自体が閑職ではあったけれどそれでこそ女の嫌な部分を毎日覗き見放題……ゴホン。書架は女同士の陰湿ないじめの温床でした」

 でも、と話を続ける母親は「あなたの性格なら……ふふ、面白い事になってしまうかもしれませんね」と言い出す。
 本当に何を言い出しているのかぎょっとした視線を送る娘にすい、と部屋の中を見回す母親は「いつでもあなたの帰る場所はここにありますから」とひと言だけ残してさっさと出て行ってしまった。

 「母上……」

 夫からどこまで聞いているのか分からないが半ば周家の不良債権となろうとしていた娘が仮とは言え、秀女として入宮する。一見、父親の思惑に振り回されているように見えるが当の本人はあわよくば女性官僚になろうとしている――どうやら母親は娘のその考えも見透かしているようだった。
 武道の父、頭脳の母。兄たちはそれぞれに受け継いだらしいが最後に生まれた末娘の琳華だけは違っていた。両親の強い気性を二つとも、併せ持ってしまっていたのだった。

 「お嬢様、旦那様がお帰りになりましたよ」

 母親と入れ替わるように顔を出してくれた梢は盛大にとっ散らかっている琳華の部屋を見て「お眠りになる前に一緒に片付けましょう」と笑顔で提案をしてくれた。
 夕食の膳も出来上がり始めている、先に話し合いをするのならつまめるように副菜を小皿で出しましょうか、と梢は勧めてくれる。